微小磁性体リングの磁化特性制御

マルカス スタイナー 新田淳作
機能物質科学研究部

 磁性体がミクロンサイズになると、高感度な磁化測定装置をもちいても1個の磁性体の磁化過程を測定するのが困難であることから、これまで数千個の微小磁性体列を作製し、平均的な磁化特性が測定されてきた。我々は、磁性体からの漏れ磁場を半導体のホール抵抗によって検出する局所ホール素子により、微小磁性体の磁化過程を感度良く測定できることを確認した[1]。磁性体微小リング構造では、磁束の閉ループ(ボルテクス)状態を形成し、漏れ磁場のない状態が安定となることが予測されており、超高密度不揮発性磁気メモリー(MRAM)に適した構造として注目されている。そこで、局所ホール素子を用いて、単一磁性体微小リングの磁化過程を調べた結果、磁化過程がリングの内径に強く依存することを見出した。
 図1挿入図は、局所ホール素子の電子顕微鏡写真を示す。写真の十字の部分が二次元電子ガス(2DEG)半導体ホール素子に対応し、磁性体リングはNiFe を用いて作製した。また、漏れ磁場を感度よく検出するため、リングをホール素子の十字部分近傍に配置した。磁場は2DEGに平行に印加し、外部磁場によるホール抵抗の変化は無視できる状態で、磁性体からの漏れ磁場によって生じるホール抵抗を測定した。図1は、ホール抵抗測定の結果を示す。磁性体リングの直径は2.0 μmに固定し、リング内径を大きくにつれ、ブロードなヒステリシスから急峻な飛びを有する二段の磁化ヒステリシス特性へと系統的に変化する様子が観測された[2]。図2は、内径0.4 μmのリングで測定した局所ホール抵抗と数値解析の結果を比較したものである。磁性体リング構造の磁化過程を数値解析した結果と測定したホール抵抗ヒステリシスは、良い一致を示し、ホール抵抗の形状は磁化過程を再現しているものと考えられる。また、数値解析との比較により磁性体リングでは、低磁場でホール抵抗が磁場依存性を示さないプラトー領域で磁束の閉ループ状態が安定に形成されていることが確認された。これらの実験結果は、ボルテクス状態へと転移する磁場をリングの内径により制御できることを示している。

[1] J. Nitta, et al. Jpn. J. Appl. Phys. 41 (2002) 2497.
[2] M. Steiner and J. Nitta, Appl. Phys. Lett. 84 (2004) 939.

図1 ホール抵抗のリング内径依存性
図2 ホール抵抗と数値解析との比較

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