ペンローズ格子フォトニック準結晶レーザ

納富雅也1 鈴木博之2 玉村敏昭3 枝川圭一4
量子物性研究部1 フォトニクス研2 NTTエレクトロニクス3 東京大学4

 結晶は周期性を持つ、即ち並進対称性を持つことが最大の特徴である。ところが並進対称性を持たないが、明確な長距離秩序を持ち、回転対称性を持つ準周期構造と呼ばれる構造(準結晶)が存在することが知られている。準結晶中ではバンドギャップ、状態密度と言った概念は結晶と同じように有効だが、バンド、ブロッホの定理、ブリルアンゾーンと言った概念は使えない。一方、屈折率の周期構造であるフォトニック結晶に利得を導入すると、フォトニックバンド端の定在波状態により帰還が生じ、外部鏡不要なレーザ発振が実現することが知られている。それでは周期性を持たない屈折率の準周期構造(フォトニック準結晶)に利得を導入すると何が起こるのであろう。コヒーレントなレーザ発振は可能なのであろうか?
 我々は以上のような背景の元に有機色素を用いて利得を持つフォトニック準結晶試料(即ちフォトニック準結晶レーザ)を世界で初めて作製した[1]。作製した構造は代表的な準周期格子の一つであるペンローズ格子であり、周期構造では許されない10回対称性を持っている(図1左)。窒素レーザの光励起により、我々は特異な10回対称性の出射スポットを示すレーザ発振を観測した(図1右)。発振波長と出射スポット形状は、ペンローズ格子の格子定数に敏感に依存しており、レーザ発振が準周期性に起因することを示している。また出射像が明確なスポット形状を示していることから、レーザ発振が準結晶中に広がった非局在モードによるコヒーレントな発振であることが明らかである。
 準結晶ではバンド構造が定義できないために、通常のフォトニック結晶のバンド理論による解析は不可能であるが、我々はペンローズ格子の特異な逆格子像(図2)を用いて、観測した発振波長および複雑なスポット像の詳細を定量的に説明できることを明らかにした。準結晶の逆格子像は通常結晶とは大きく異なり、還元可能なブリルアンゾーンが存在しないため、非常にバラエティに富んでいる。この逆格子空間の特異性が、フォトニック準結晶のレーザ発振の大きな特徴である。周期結晶を用いたレーザではその発振動作は周期性による様々な制約を受けているが、準結晶レーザではそのような制約からフリーな発振が可能なことを示している。

[1] M. Notomi, H. Suzuki, T. Tamamura, K. Edagawa, Phys. Rev. Lett. 92 (2004) 123906.

図1 作製したペンローズ格子準結晶レーザの電子
顕微鏡像(左)発振状態での出射スポット像(右)
図2 作製したペンローズ格子
準結晶の逆格子像(計算)

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