AlNフィールドエミッションディスプレイ

谷保芳孝 嘉数 誠 牧本俊樹 
機能物質科学研究部

 窒化アルミニウム(AlN)は直接遷移型で最大のバンドギャップエネルギー(6.2 eV)を有する。また、AlNは電子親和力がほとんど零である。そのため、AlNを用いれば電界放出(フィールドエミッション)が起こりやすいことが予想され、フィールドエミッションディスプレイなどへの応用が期待されている。しかし、これまで、AlNのn型伝導性制御は非常に困難で、表面に電子を効率よく供給できないため、報告されてきたAlNのフィールドエミッション特性では、エミッション電流が低く、駆動電圧も高く、時間に対する電流変動が大きいという、問題があった。
 これまで、我々は、Siドーピングにより、世界に先駆けてAlNのn型伝導性制御に成功した[1]。また、AlNにSiを高濃度にドーピングするとフィールドエミッション特性が著しく向上することを見出した[2]。今回、エミッション電流の制御が可能な三端子構造を有するディスプレイの基本構造を作製し、AlNを用いたディスプレイの動作を実現した[3]。そして、実際のデバイス構造において、高濃度SiドープAlNのフィールドエミッション特性を評価した。
 図1に作製したディスプレイの基本構造を示す。ディスプレイは、カソード電極上に設置した高濃度SiドープAlN、メッシュ状のグリッド電極、蛍光体を塗布したアノード電極からなる。本構造では、グリッド電極に印加された電圧によってAlN表面から電子をフィールドエミッションさせ、グリッドを通過した電子をアノード電圧により加速し、蛍光体をその加速電子で励起し発光させる。AlN―グリッド電極間の電界強度EG が11V/μm以上において、エミッション電流は検出された。そして、エミッション電流は電界強度の増加により指数関数的に増加し、EG = 23V/μmで16 μAに到達した。また、時間に対するエミッション電流の安定性を評価した結果、エミッション電流の変動率はわずか5.5%で、放電も起こらず安定した動作が確認された。この高い安定性は強いAl-N原子間結合に起因している。
 図2は、ディスプレイ動作時の発光の様子である。発光領域はメッシュグリッドの開口部とほぼ一致している。蛍光体からの発光は面内で均一であり、発光輝度はディスプレイとして実用レベルの300 cd/m2が得られた。


[1] Y. Taniyasu, M. Kasu, and T. Makimoto, Appl. Phys. Lett. 85 (2004) 4672.
[2] M. Kasu and N. Kobayashi, Appl. Phys. Lett. 79 (2001) 3642.
[3] Y. Taniyasu, M. Kasu, and T. Makimoto, Appl. Phys. Lett. 84 (2004) 2115.

図1 ディスプレイの基本構造
図2 ディスプレイからの発光の様子


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