シリコン熱酸化における界面反応機構の第一原理計算

影島博之、植松真司
量子電子物性研究部

 シリコン熱酸化膜はシリコンを使ったデバイス作成において欠かすことができず、その必要性は将来のシリコンデバイスでも不変である。我々はシリコン熱酸化過程の原子スケールでの詳細制御を目指して、メカニズムの統一的な理解を研究している。
 シリコン熱酸化過程は、表面を覆う酸化膜を酸素が拡散していく過程、そして酸素が界面で基板のシリコンと反応を起こす過程、の通常2つの段階に分けられると考えられてきた。我々は、界面で反応を起こす過程をさらに細分化し、酸素がシリコン基板に取り込まれる過程と、反応によって界面に発生した歪みを解放する過程、に区別すべきであると考えている。最近、界面から還元性の原子種が酸化膜中に流れ込んでいることが同位体を用いた実験によって確認され [1]、この考え方の重要性が裏付けられている。
酸素がシリコン基板に取り込まれる過程については、これまでの理解で期待されるような大きな反応障壁を必ずしも持たないことが、第一原理計算で明らかになっている(図1)[2]。つまり、この過程が必ずしも界面反応の律速過程になるとは限らない。これは、界面に到達した酸素分子が解離して界面のシリコン間に割って入って酸化反応する際に、従来言われていたように酸素同士の結合を完全に切り離してバラバラにしたり、シリコン同士の結合を一度完全に切り離したりする必要がないからである。
 一方、界面に発生した歪みを解放する過程については、界面付近に生成されうる酸素空孔を伴った高密度酸化領域(図2)が深く関与していることが、同じく第一原理計算によって明らかになっている[3]。この領域は、酸素空孔を伴っているとはいえども、全ての結合手はしっかりした共有結合を組んでいて、界面固定電荷密度や磁性中心密度が低いという実験結果と矛盾しない。この領域は、また格子間SiO分子を伴った領域と見なすことが可能であり、界面から還元性の原子種が発生するという前述の実験結果とも矛盾しない。
[1] S. Fukatsu et al., Appl. Phys. Lett. 83 (2003) 3897.
[2] T. Akiyama and H. Kageshima, Surf. Sci. 576 (2005) L65.
[3] H. Kageshima et al., Jpn. J. Appl. Phys. 43 (2004) 8223.

図1 
酸素分子の反応パス
 
図2
酸素空孔を伴った高密度酸化膜構造


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