海馬組織培養を用いた神経細胞毒性研究

韓 春錫、河西奈保子、鳥光慶一
機能物質科学研究部

 ラット海馬のスライス培養技術は神経細胞、神経回路の特徴を生理学的および薬理学的に解明する上で非常に重要な研究手法である。その理由として、調製された海馬スライスには細胞層構造と神経回路が正確に維持されていること、また、その調製が比較的容易であることがあげられる。
 一方,てんかん動物モデルや側頭葉てんかんの患者においては、海馬のCA1, CA3領域の神経細胞死が起こることがよく知られている。しかし、CA2領域の神経細胞についてはほとんど検討されていない。
 本研究ではラット海馬のスライス培養系にbicuculline(BiC:抑制性神経伝達物質受容体GABAAの拮抗剤)を投与し、その神経細胞毒性ならびに電位依存性カルシウムチャネル(VDCC)の関与について調べた[1][2]。その結果、CA2領域に選択的な神経細胞死がBiC投与12時間後に認められた(図1A)。さらに、24時間後には神経細胞死が他の領域、特にCA3領域にも及んでいることが観察された。薬理学的解析により,これらの神経細胞死にVDCCを介した神経細胞内のカルシウムの過剰流入が関与していることが確認された(図1B)。
 今回の研究では、海馬CA2領域の神経細胞の脆弱性を初めて証明し、記憶、学習機能を司る海馬の神経細胞機能を理解する上で重要な知見を得た。

[1] C. Han, N. Kasai, K. Torimitsu, Neuroreport 16 (2005) 333-336.
[2] C. Han, N. Kasai, K. Torimitsu, Bul. JSN. 42 (2003) 238.

図1 時間、領域依存的な神経細胞死 (A)とCa2+ 流入 (B)がラット海馬スライス培養中でBiC によって誘導された。

 


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