光応答性を示す導電性高分子ナノデバイス

中島 寛 Wenping Hu 古川一暁 樫村吉晃 味戸克裕 鳥光慶一
機能物質科学研究部


 単一または少数の有機分子を電子回路部品として用いる分子スケール素子を目指した研究開発が盛んである。分子は思い通りに形状や機能を設計できる特徴を有するため、分子を組み上げていくボトムアッププロセスにより、素子構造の高密度化・高機能化・高速化が期待できる。中でも導電性高分子は、主鎖の電子共役に基づく顕著な電荷輸送特性、光吸収・発光特性を示し、ナノスケールでの光・電子機能部品としての用途が志向されている。これまで我々は、剛直なπ共役系導電性高分子として知られるポリ(p-フェニレンエチニレン)(PPE)に着目し、その分子末端を巧く加工することで、末端チオール基を導入したPPE誘導体(TA-PPE)を分子設計してきた[1]。末端チオール基のAu表面への選択的な化学吸着性を利用し、Auナノギャップ電極間への自己集積によるTA-PPEの分子接合が可能となった(図1)。今回、Auナノ電極間(ギャップ間隔:〜40 nm)にTA-PPEを接合したナノデバイスの光誘起電流特性に顕著なスイッチング挙動を観測することに成功した[2]。
 図2にAu/TA-PPE/Auナノ接合デバイスの光電流応答特性を示す。照射する白色光のon-offに伴い、ナノ接合デバイスは暗(off)状態での低電流値/明(on)状態での高電流値の明らかな差異を示し、ナノスケールでの光スイッチ機能を発現した。(ナノ電極間には0.5 Vの一定電圧を印加)。“off”状態での電気抵抗値〜1015Ωに対し、“on”状態では〜1012Ωの値を示し、その比は1000倍にも及ぶ。また、このスイッチング特性は、高速かつ再現性良く繰り返し観測される。光照射下では、TA-PPE鎖中に発生した光励起子が、ナノ電極間の印加電圧に誘発され電子と正孔へと電荷分離を引き起こす。それらのキャリアは、暗状態では達成できないAu-S結合部位に存在するエネルギー障壁をトンネル可能にするため、光誘起電流が観測されるものと説明できる。さらにナノ接合デバイスに生じる光電流には、顕著な照射光の強度依存性が見られ、照射光がもたらす光子密度の変化に敏感に応答する結果も得られている。
 今後、ナノ接合デバイスと他の有機・生体機能性分子との複合化を達成し、分子の個性を活かした、より高度な光・電子機能を有する分子スケール素子作製を検討していく。

[1] H. Nakashima, et al., Langmuir 21 (2005) 511.
[2] W. Hu, et al., J. Am. Chem. Soc. 127 (2005) 2804.

 
図1  TA-PPEの分子構造とデバイス構造   図2 ナノ接合デバイスの光電流応答特性
(白色光照射, 52 mW)

 


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