IP3受容体タンパク質の溶液中AFM観察

1須原和歌子 1藤本一朗 1,2御子柴克彦 1,3小林未明 1,3後藤東一郎 1,3鳥光慶一
1東京大学医科学研究所 神経情報シグナル共同研究ユニット 
2東京大学医科学研究所 脳神経発生・分化分野 3機能物質科学研究部

 小脳プルキンエ細胞には、リン酸化を受ける、ある糖タンパク質が豊富に存在することが知られていた。御子柴らは1989年、このタンパク質がイノシトール三燐酸受容体(IP3R)そのものであることを発見し、その全アミノ酸配列を決定した。続いてIP3Rが細胞内のカルシウム振動を発振するために重要な分子であること、受精、卵の活性化、ニューロンの突起伸展、脳の可塑性に関わり、欠損動物はてんかんを起こすこと等を次々と明らかにしてきた。
IP3Rタンパク質の立体構造に関しては、透過型電子顕微鏡(TEM)解析によって、一辺が約20nmの四角型構造をとることを明らかにし、Ca2+を加えることによって、この4量体が直径約30nmの風車型構造に変化することも報告している。
 今回我々は、生理的な条件でIP3Rの構造をCa2+存在下/非存在下で観察することを目的とし、原子間力顕微鏡(AFM)を用いた実験を行った。マウス小脳から精製したIP3Rをマイカに滴下し静置した後洗浄し、溶液中でAFM観察を行った。IP3Rの濃度を約0.1mg/mlとした場合、IP3Rの方向は一定していないが、Ca2+を加えると、大きさに明らかな変化が見られた。またIP3Rの濃度を0.025mg/mlに希釈して観察したところ、IP3Rが独立して存在していた。詳細に観察したところ、4量体と考えられる構造を捉えることに成功した。この外径は25nmであり、TEMの結果と類似していた。さらにCa2+を含んだ溶液中で走査したところ、Ca2+非存在下では見られなかった構造が観察された。これはTEM観察から類推された風車型構造に類似しており、その外径は30nmであった。
 この研究成果は、生体試料をAFM観察する際の第一歩であり、今後さまざまな膜タンパク分子を生体内と同様の環境下で観察する上で重要な布石となると考えている。

[1] W. Suhara et al., 34th annual meeting of Society for Neuroscience, San Diego, USA (2004)
[2] I. Fujimoto et al., 9th Linz winter workshop, Linz, Austria (2005).


図1 IP3RのAFM観察。溶液中Ca2+非存在下(A)、 Ca2+存在下(C)での観察像。図中の点線に沿った断面図をそれぞれ下に示した。また、それぞれの状態の4量体構造モデルを(B)、(D)に示した。

 


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