導電性ポリマー電極の開発と多点電極を用いた神経活動の計測

島田明佳 Tobias Nyberg 河西奈保子 鳥光慶一
機能物質科学研究部

 生物の脳は、「知覚」「意識」「行動」などに関する情報を、神経細胞が発する2種類の電気信号、すなわち局所的電位と活動電位により処理している。しかし、情報がこれらの電気信号によってどのように表現されているのか、そのためにどのように神経回路網が形成されているのかについては、よくわかっていない。
 我々はこれらの疑問の解明を目指して、マウス及びラットの大脳皮質由来の神経細胞を分散培養して形成される神経回路網の活動電位を、多点電極を用いて計測している。多点電極による同時計測は、個々の神経細胞とそれらから構成される神経回路網の電気的な活動の関係を明らかにするための有効な手段である。
 しかし多点電極で計測される活動電位は一般的に微弱であり、S/N比の優れた電極が求められていた。図1は、今回開発されたインピーダンスが小さくかつ神経細胞との親和性が保たれた導電性ポリマー電極の構造を示す。この電極のインピーダンスは、約5kΩ@1kHzで[1]、従来の白金電極の約20分の1であった[2]。我々は、この電極を用いて大脳皮質由来の神経細胞の活動電位を1ヶ月以上測定できることを確認した。
 大脳皮質由来の神経細胞は、興奮性及び抑制性の2種類が存在するが、分散培養された神経回路網において両者を区別することは困難である。そこで抑制性神経細胞の大部分を占めるGABA作動性神経細胞が、図2のように緑色蛍光タンパク質で標識された分散培養を用い、自発的な活動電位を計測した。その結果、GABA作動性神経細胞の電気活動は、緑色蛍光タンパク質で標識されていない神経細胞よりも早い時期に活発になることを示唆する知見を得た。
 今後は、興奮性及び抑制性神経細胞の情報処理過程における相互作用の研究を、導電性ポリマー電極を用いて進めていく。

[1] T. Nyberg et al., Neuro2004 Sept 21-23, Osaka, Japan (2004).
[2] Y. Jimbo et al., IEEE Trans. Biomed. Eng., 50, 2 (2003) 241.

 
 図1 ポリマー電極の構造
図2 緑色蛍光タンパク質で標識された抑制性神経細胞

 


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