金-シリコン合金島の原子ステップへの配列

日比野浩樹 渡辺義夫*
機能物質科学研究部

 半導体ナノ構造の作製手法を大別すると、トップダウン的な微細加工法とボトムアップ的な自己形成法がある。自己形成法は、低コスト・大規模・高品質等の潜在的な利点を有するが、サイズや位置等の制御性には課題が多い。我々は、これまで半導体表面構造の原子スケール制御を通して、ナノ構造をウェハースケールで自己組織的に形成する手法を開拓してきた。今回、シリコン表面の原子ステップ配列をテンプレートとして用いることにより、金-シリコン合金島の自己形成を制御できることを示す。
 Si(111)表面に、超高真空中で高温(〜700℃)と低温(〜400℃)の二段階でAuを蒸着することにより三次元島を形成した。図1は形成した三次元島の原子間力顕微鏡(AFM)像とそこから求めた高さ分布である。10%程度のサイズばらつきをもつ三次元島が原子ステップに配列している様子がわかる。この島形成過程を低エネルギー電子顕微鏡(LEEM)によりリアルタイム観察することにより、三次元島が非常に狭いAu被覆率の範囲内で一斉に出現することが明らかとなった。このためサイズの均一な島が形成される。また、島を形成した表面において、Au成長を一旦止め、三次元島の数を減少させた後、Auを再成長すると、三次元島が後方に溝を残しつつ上段テラスへと侵入した。このことから、三次元島がAuとSiの混晶からなる液滴であることがわかる。このときの移動距離を時間に対してプロットした図2は、島はテラス上をほぼ一定の速度で移動するのに対し、テラスを渡りきり上段側のステップに接近すると、そこへジャンプすることを示している。ステップがAu-Si島の安定な存在位置であることがわかる。
 ここで紹介した方法により、リソグラフィーを用いることなく、ナノメートルサイズのAu-Si合金島を位置やサイズを制御して形成できる。金は半導体ナノワイヤ成長の触媒や分子の固定に広く用いられており、今後、半導体ナノワイヤや分子を用いた機能化の可能性を探る。
  *現NTT-AT

図1 
Au-Si合金島のAFM像と高さ分布
図2 Au-Si合金島の移動を示すLEEM像と円で囲んだ島の移動距離の時間依存性


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