カーボンナノチューブの空間選択的除去

鈴木哲 小林慶裕 
機能物質科学研究部

 カーボンナノチューブはナノメートルスケールの直径と優れた電気的特性を有しているため、将来のナノエレクトロニクス材料の候補として期待されている。実際にナノチューブを用いた電界効果トランジスタや単電子トランジスタは既存のシリコンデバイスを凌駕する特性を示すことが明らかになっている。しかしながら、ナノチューブの集積化の研究はほとんど進んでいない。これはナノチューブを所望の場所にのみ成長、配置する技術が全く確立していないためである。従って基板上の所望の場所にナノチューブを配置すべく高密度成長を行うと所望の場所以外にも多数のナノチューブが成長、配置され、これらが電気的短絡を引き起こすという問題があった。
 ランダムなナノチューブネットワークから短絡を起こす不要なナノチューブのみを選択的に除去することができればナノチューブを用いて様々な回路構造を構成することができる。今回我々は、低加速電子の照射がナノチューブに損傷を与える現象を発見すると共に、この損傷を利用して不要なナノチューブのみを空間選択的に除去する方法を提案した。加速電圧1 kVの電子線照射前後の単層ナノチューブのラマン散乱スペクトルを図1に示す。ナノチューブに特徴的なRBM (Radial Breathing Mode) ピークが電子線の照射と共に大きく減少しており、ナノチューブに損傷が誘起されたことを示している。またこの損傷は1 kV前後の非常に低い加速電圧で激しく起こることが明らかとなった。一般にカーボンナノチューブは強靱な化学的、機械的強度を有するが、電子線照射損傷によりその強度は大きく減少する。我々はこのことを利用して、損傷を受けたナノチューブを選択的に、また簡便に除去する方法を開発した。この手法を200 nm径の微細な円柱構造を架橋する単層ナノチューブネットワークに適用した例を図2に示す。図中の破線上に電子を照射した後、試料に大気中で加熱処理を施した。非常に簡便な手法であるが、照射線上を横切るナノチューブが全て除去されていることがわかる。本結果は、ナノチューブの集積化の可能性を開くものである。
[1] S. Suzuki et al., Jpn. J. Appl. Phys. 43 (2004) L1118.
[2] S. Suzuki et al., Jpn. J. Appl. Phys. 44 (2005) L133.

 

 
図1 電子照射前後のラマン散乱スペクトル     図2 選択除去処理後の架橋ナノチューブネットワーク。破線に沿って電子が照射された。スケールバーは2.5 μm。


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