ナノスプリング付きカーボンプローブのSiカンチレバー上への集積化

永瀬 雅夫
量子電子物性研究部

 走査プローブ顕微鏡技術をベースとしたマルチプローブシステムは高い空間分解能で電気特性を計測できる有力なシステムになると期待されている。今回我々は、新しいタイプのマルチプローブシステムを開発した。ナノスプリング付きの四つのカーボンプローブをAl電極付きのSiカンチレバー上に作製した。集束イオンビーム化学気相堆積法(FIB-CVD)により形成したダイヤモンド状カーボンは、堅く、且つ、導電性があることが知られており、プローブ材料としては最適である。最近、松井らはFIB-CVD法によりコイルスプリング構造を作製している。[1]ナノスプリングは複数のプローブ高さの違いを吸収できる可能性があり、従来のマルチプローブシステム[2]にはない機能が実現できることが期待される。
 図1はSiカンチレバー上のカーボン四探針プローブの(a)概略図と(b),(c)SEM像である。FIB-CVD三次元構造体は兵庫県立大学のSMI2050(SIINT社製)で作製した。[1]ナノスプリング部を含むプローブの高さは10μm、プローブ直径は110nm、ナノスプリング径は380nmである。図2はプローブと導電性試料のコンタクト特性である。このプローブの場合、580nmの高さで試料との電気的接触が確立されている。図2中の原点(AFMの制御高さ)ではSiカンチレバーは200nm変位しているので、ナノスプリングは約400nm縮んでいることになる。四つのプローブはすべて同時に試料と電気的コンタクトをしており、各々のプローブの高さの違いをスプリングで吸収出来ることが確認された。スプリング部の機械特性の定量計測を行った結果、ナノスプリングの弾性定数が、通常のバネ綱の弾性定数とほぼ一致することが判った。このプローブを用いてAFM形状像の取得を行った後のプローブ形状を確認したが、変形等はなく剛性は十分に高くナノプローブとして利用可能なことが判った。
 走査プローブ顕微鏡技術と集束イオンビーム技術の融合がマイクロ・ナノ電気機械システム(MEMS/NEMS)の新しい領域を切り開いていくことが期待される。
[1] S. Matsui et al., J. Vac. Sci. & Technol. B 18 (2000) 3181.
[2] M. Nagase et al., Jpn. J. Appl. Phys. 42 (2003) 4856.

 

 
図1 
Siカンチレバー上のナノスプリング付き四探針プローブ 
(a)概略図、(b)低倍SEM像、(c)高倍SEM像
 
図2
プローブ電流の変位量依存性試料(Au薄膜)電圧1V


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