電子の干渉を用いた力・変位測定

山口浩司 平山祥郎
量子電子物性研究部

 微小カンチレバーによる力・変位の高感度検出技術は、古くはアナログレコードのピックアップから、最近においては原子間力顕微鏡やエアバック用加速度センサーに至るまで、これまで幅広い分野に応用されてきた。特にMEMS (Microelectromechanical Systems) 技術の進展により、昨今では微小機械の構成部品としての重要性も注目されている。現時点で最も高い感度を持つ変位・力検出手法は、カンチレバーとレーザー干渉変位計の組み合わせで実現されており、昨今では単スピンの検出に応用された例も報告されている [1]。我々は光学的手法とは相補的で、微細化・集積化に有利な手法として、カンチレバーの変位を半導体における電気抵抗の変化(ピエゾ抵抗)により検出する手法を研究してきた。特に半導体ナノ構造を用いたピエゾ抵抗カンチレバーでは、量子力学的効果によりピエゾ抵抗が大幅に増大することが期待される。ここでは光の干渉と同様に、電子波の干渉を用いて高い検出感度を得る試みについて紹介する [2]。
 図1は作製したデバイスの電子顕微鏡写真である。カンチレバーの厚さは300nmであり、15nm厚の導電性InAs薄膜と285nm 厚の絶縁性Al0.5Ga0.5Sb薄膜のヘテロ構造を、選択エッチングによりGaAs基板から分離させて作製される。InAs薄膜の表面には種々の原子や凹凸が存在し、100nm程度の周期で網目のように張り巡らされた電子の経路を作る。この経路間の干渉により抵抗値の変化は増強される。図2はカンチレバーを曲げた時の抵抗値の変化を磁場の関数として測定したものである。磁場は電子の干渉の具合を調整するために用いられる。図より、磁場を適当な値に調整し、最も強く干渉の効果が得られる条件では、磁場を加えない場合に比較して一桁近い抵抗値の変化が得られている。この結果は、このような電子の干渉効果を用いることにより、カンチレバーの変位を高感度に検出できる可能性を示している。


[1] D. Ruger et al., Nature 430 (2004) 329.
[2] H. Yamaguchi et al, Phys. Rev. Lett. 93 (2004) 036603.

 

図1 
作製した構造のSEM写真
図2 
カンチレバーを曲げた時の抵抗値変化


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