InAs/GaSb電子−正孔系におけるランダウ準位の混成と量子ホール効果

鈴木恭一 高品圭 平山祥郎
量子電子物性研究部

 InAs/GaSbヘテロ接合を作製すると、InAsの伝導帯とGaSbの価電子帯のエネルギーが重複し、二次元電子と二次元正孔が近接した状態で共存し得る系が可能となる。この系では、電子と正孔のランダウレベル軌道占有率の差でホール抵抗が整数に量子化する、特有の量子ホール効果が知られていたが、その機構は解明されておらず、電子と正孔それぞれが量子ホール状態になり、それらが組み合わさることで起こる量子ホール効果と思われていた。
 我々は、図1に示したような伝導性基板をゲートとするバックゲート構造を採用し、GaSb正孔層を基板側、InAs電子層を表面側に配置することで、電子濃度を表面ポテンシャルにより固定し、正孔濃度のみがゲート変調可能な試料の作製に成功した。InAs層とGaSb層の間のAlSb層は、電子、正孔両方にポテンシャルバリヤとして働き、厚さを変えることで電子−正孔波動関数の混成を制御できる。このような試料を用い詳細な磁気伝導特性を調べることで、InAs/GaSb電子−正孔系の磁場中でのエネルギー構造および量子ホール効果の機構を以下のように明らかにした。波動関数の混成がないときには、磁場中で電子、正孔のエネルギーは図2の波線で示したようなランダウ準位に量子化されるが、波動関数の混成により、それらは実線で示したように混成し、電子と正孔の占有率が等しいエネルギー領域(電子、正孔濃度が等しい領域)がバンドギャップとなる新たなエネルギー構造が形成される。このとき、ネットキャリア(電子、正孔の濃度差)がこの混成したランダウ準位を満たすことで、二次元電子系と同様の量子ホール効果が起こる。
 本研究で得られた波動関数の混成とエネルギー構造の基礎的な理解は、この系で期待されている、定常的な励起子ボーズ凝縮等の電子−正孔相関に起因する新たな物性の実現や、サブバンド間遷移と層間トンネリングを利用した中赤外光デバイスへの応用に大きく寄与すると考えられる。
[1] K. Suzuki et al., Phys. Rev. Lett. 93 (2004) 016803.

 

図1 
試料のエネルギー構造

図2 

ランダウ準位の混成

(破線E、Hは混成がないときの電子、正孔のランダウ準位。実線は混成したランダウ準位。)


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