ナノ電極リソグラフィ

横尾 篤 
量子光物性研究部

 近年、電子デバイスや光デバイスで要求されるサブミクロンオーダーの微細構造を提供する手段として、ナノプリント・ナノインプリント技術や、電気化学反応を使った走査探針型(SPM)リソグラフィが注目を集めている。このような「接触型」リソグラフィは、従来のプロジェクション型のパタン作製技術に比べて、簡便に微細パタンを提供できるという特徴をもつ一方、ナノプリント・ナノインプリント技術ではパタン変更などの要求に対応できるフレキシビリティが小さく、SPMリソグラフィでは十分なスループットが得られない。我々は、ナノプリント・ナノインプリント技術のもつスループットの高さと、電気化学反応のもつフレキシビリティをあわせ持つパタン作製手法の実現を目指している。
 ナノ電極リソグラフィでは、図1に示されるように、導電部と絶縁部からなるパタンを表面に有するナノ電極を用い、ナノ電極上のパタンを電気化学反応により対象に転写する[1]。ナノ電極を対象に接触させて電圧を印加し、ナノ電極の導電部と対象物表面が接触した部分に電流が流れることにより局所的に電気化学反応が生じる。SiやGaAsなどの半導体基板の場合、大気中での陽極酸化反応により表面に生成した酸化物によりナノ電極上のパタンを一括転写することができる[1, 2]。図2に、Si基板上に転写されたドットパタン(ピッチ300nm)を示す。形成された酸化物パタンは、直接、エッチングマスクとして利用することができるため、レジストを用いない微細構造作製が可能となる。また、ナノインプリント技術のように凹凸形状を物理的に転写する方法ではないため、対象表面の大きな変形は伴わず、ナノ電極リソグラフィを繰り返してより複雑なパタンを形成することが可能となる。図3にライン・アンド・スペース(L/S)パタン(ピッチ500nm)の転写を2回繰り返す、多重パターニングにより作製された格子状パタンを示す[3]。
 このように、ナノ電極リソグラフィは、エッチングマスクの直接形成や、パタン追加のフレキシビリティをもつパターニング手法である。また、基板表面に化学的性質の違いからなるパタンを直接形成できる手法であり、選択成長用のテンプレートなどへの応用も考えられる。今後、より一般的なパターニング手法とするために、基板上金属薄膜やレジストへのパタン転写を検討していく。

[1] A. Yokoo, Jpn., J. Appl., Phys., 42, L92 (2003)
[2] A. Yokoo, S. Sasaki, Jpn., J. Appl., Phys., 44, 1119 (2005)
[3] A. Yokoo, J. Vac. Sci. Technol. B, 21, 2966 (2003)

図1 ナノ電極リソグラフィ
図2 Si上のドットパタン
図3 L/S多重パターニング
(a) 1回目終了後
(b) 2回目終了後


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