国際シンポジウム「メゾスコピック超伝導とスピントロニクス」MS+S2006

 2006年2月27日から3月2日にかけて、NTT厚木研R&Dセンターにおいて、国際シンポジウム「メゾスコピック超伝導とスピントロニクス」MS+S2006が行われた。主催はNTT物性基礎研究所と科学技術振興機構である。この会議も4回を数え、欧米のメゾスコピック物理の研究者に定評を与えられた感がある。今回は、46の講演と約80のポスター発表があった。会議のテーマは、量子計算や量子情報処理技術の基礎技術として近年注目されてきている。
 会議の初回からのテーマ「メゾスコピック超伝導」も、今回は学問的な興味のみならず応用上も重要になってきたという点で感慨深いものがある。Professor J. Martinis, Professor F. W. J. Hekking, Professor D. Esteve, Professor J. Clark, Professor C. J. P. M. Harmans, Dr. K. Semba, Dr. Y. Nakamura, Dr. Wallraff, and Professor A. Ustinovの錚々たる面々が彼らの超伝導量子ビットについての講演を行った。ここで挙げたメンバーだけで、現在実際に動く超伝導量子ビットを持っている世界の研究機関のほとんど全てを網羅している。なかでも今回、UCSBのJ. Martinisのグループは、彼らの位相量子ビットを用いた2量子ビットの実験で量子トモグラフィーの観測に成功するなど目を見張る結果を示した。イェール大は、電荷量子ビットと伝送線のエンタングルメントの実験を講演し、NTT物性科学基礎研究所のグループも、磁束量子ビットとLC共振器回路のエンタングルメントの操作に成功し、いわゆる「真空ラビ振動」の観測を報告していた。これら2つの成功は、巨視的量子状態のエンタングルメントを観測したことになり、学問的な意味での重要性が高い。
 スピントロニクスの分野でも急速な進歩が続いている。ハーバード大のC. Marcusは2重量子ドットの電子スピンを使って、エンタングルメントの形成と検出に成功した。NTT物性科学基礎研究所の佐々木は、量子細線を介して2つの量子ドットの電子間に働くRKKY相互作用をゲート制御して見せた。また、半導体中のスピン・軌道相互作用を利用したスピン制御は、この会議の初期からの話題の1つである。UCSBのD. Awschalomは、GaAs、InGaAsの2次元電子系でスピン・ホール効果を光学的に観測することに成功した。東北大の新田はInGaAsでスピンの歳差運動をゲート制御し、東北大の大野はGaMnAs系で磁壁が電流駆動される様子を観察した。
 会議の中日、インスブルックのH. Haffnerによって、束縛イオンを用いたエンタングルメント操作についての特別講演があった。会議の参加者はこの分野の専門家ではないが、驚くべき精緻なイオン制御の技術に目を見張った。
 今回の参加者は約200名で、その4分の1が海外からの参加である。皆、一様に、現代の高度情報化社会と量子物理が密接な関係をもつ近未来の夢を見ながら帰途に着いたことと思われる。

 

 
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