サイエンスから革新的技術まで

日頃より、私どもNTT物性科学基礎研究所の研究活動に多大なご支援・ご関心をお寄せ頂き誠にありがとうございます。
物性科学基礎研究所では、
(1) ネットワーク・情報処理技術における処理能力・セキュリティーの壁を越える新原理・新コンセプトの創出
(2) 中長期的なイノベーションにつながる基礎技術の開拓
を進め、中長期的NTT事業への貢献のみならず、普遍的知見の獲得など学術的貢献もミッションとして研究活動を進めております。その目的を達成するうえで、研究成果をタイムリーかつ継続的に提供することが重要と考え、各研究テーマを
(i) スピードを重視し、内外との連携により戦略的に展開を図るべきテーマ(重点研究)
(ii) 重点テーマへの発展を期待した探索的な研究(探索研究)
(iii) 従来技術から脱却し、破壊的イノベーションへと発展させるべきテーマ(革新的研究)
に分類、それぞれの状況に適したマネージメントを行うよう努めております。
重点研究のテーマとしては、量子情報処理とナノバイオ研究があります。前者は、量子力学の根幹である電子、あるいは光子の本質を解明し、量子暗号通信あるいは量子コンピューティングといった具体的な応用を設定、情報処理能力・セキュリティーの壁を凌駕しようというものです。物性科学基礎研究所では、これまで量子光学、半導体電子物性、半導体微細加工技術などの研究を進めており、半導体量子ドット、超伝導素子、冷却原子などの研究において多くの成果を上げております。それらの成果、知見をベースとして、更に内外研究機関との連携により、量子暗号通信および量子コンピュータの可能性を検討しております。また、ナノバイオ研究では、神経科学・バイオ分子科学とナノテクノロジーの融合による新分野の創出を目指しており、分子・蛋白と人工ナノ構造との融合は、新しいデバイスの登場を期待させます。
また探索研究としては、ナノメータスケールの微細構造において、その機械的運動と量子力学的電子状態を関連付け、機械的運動に現れる量子力学的側面について研究を進めております。また、カーボンナノチューブを所望の場所で切断するなど、ナノ構造を自在に操る技術、更には電子のスピン状態の解明とその制御を目指したスピントロニクスなどの研究を推進しています。
更に近い将来、既存の技術を駆逐するような破壊的イノベーションの実現を目指した革新的研究も進めております。例えばワイドギャップ半導体、単電子素子、フォトニック結晶デバイスなどの研究を推進し、既存技術にとって変わる技術の確立を目指しております。
これらの研究を行うにあたって、NTTの他研究所に加え、日本、米国、欧州、アジアの大学や研究機関と広く共同研究を行っており、多くの優れた成果を上げています。また、物性科学基礎研究所では、当厚木R&Dセンター内において国際シンポジウムを毎年開催しております。2006年2月には、メゾスコピック超伝導とスピントロニクスに関する国際シンポジウムを開催し、内外から100名以上の方々に参加して頂きました。また2005年10月には、Decoherence and Noise in Quantum SystemsをテーマにBRLスクールを開催しました。このスクールでは、7名の一流研究者を講師として迎え、世界17カ国の若手研究者や学生を対象に、その分野における一流研究者との交流の場を提供しました。これらの活動を通じて、開かれた研究所としての使命を果たすとともに、本研究所での成果を広く世界に発信するよう努めております。
本冊子は2005年度の成果と研究活動についてご紹介しております。この小冊子をご覧いただき、研究交流促進の一助となれば幸いです


2006年9月

湯本 潤司

NTT物性科学基礎研究所長
〒243-0198 厚木市森の里若宮3-1
電話:+81 46 240 3300
FAX:+81 46 270 2358

 



【前ページ】 【目次へもどる】 【次ページ】