ダイヤモンドFETのGHz大電力動作

嘉数誠 植田研二 
機能物質科学研究部

 近年、通信情報量は急速に大容量化する傾向にあり、GHz帯で大電力動作可能な電子デバイスが求められている。ダイヤモンドは、最高の熱伝導率、最高の破壊電界強度を有し、キャリアの移動度やドリフト速度も高いため、ダイヤモンド電子デバイスは、理論的に、最も優れた高周波電力デバイスの性能を示すと予想されている。
 従来のダイヤモンドは、結晶成長中に結晶欠陥が容易に生成し、高濃度の不純物が混入するため、良質な結晶を得ることができなかった。しかし我々は、結晶成長前の基板の表面処理や高純度メタン原料ガスを用いる成長方法によって、高品質ダイヤモンド薄膜結晶を成長する技術を確立することができた。
 図1に作製したダイヤモンドFET(電界効果トランジスタ)の構造を示す。高温高圧(HTHP)合成ダイヤモンド基板上に、水素ガスと高純度メタン原料ガスを用いて、高品質ダイヤモンド薄膜をCVD成長する。次に高品質ダイヤモンド薄膜の表面を水素終端化し、表面近傍に正孔チャンネルを形成する。最後に電子ビーム露光技術とセルフ・アライン技術でサブミクロンAlゲートを形成した。今回は電子ビーム露光技術を改良し、FETのソース・ゲート電極間隔を0.5μm程度まで縮小し、更にAlゲートのゲート長を0.1μmまで短縮したことによって、高周波特性は更に向上した。
 図2に、ゲート長(Lg)0.1μm、ゲート幅(Wg)100μmのダイヤモンドFETの1GHz、A級動作での入出力電力特性を示す。最大出力電力密度(Pout)は、2.1W/mmに達した。この値は、これまでの世界最高の我々の報告値の7倍、現在実用にあるGaAsFET電力増幅器の約2倍に相当する。また線形電力利得(Gain)は10.94dB、付加電力効率(PAE)は31.8%で、GaAsFETと比べても遜色のない値が得られた。
 今後はダイヤモンドFETの実用化へ向けて、更なる高周波化、大電力化を進める一方で、信頼性の向上にも努めていく。

[1] M. Kasu, M. Ueda, H. Ye, Y. Yamauchi, et al., Electronics Letters 41 (2005) 1249.
[2] M. Kasu, M. Ueda, H. Ye, et al., Diamond and Related Materials 15 (2006) 783.

図1 ダイヤモンドFETの断面構造
図2 1GHzでの入出力電力特性

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