BGaNバッファー層を用いた高品質GaN薄膜の成長

赤坂哲也 小林康之 牧本俊樹
機能物質科学研究部

 GaN系薄膜は、SiCやGaN基板などに比べて安価で大面積であるという特徴があるサファイア基板上に形成することが好ましい。ところが、GaNとサファイアとの間の格子定数と熱膨張係数の大きなミスマッチによる多数の結晶欠陥(貫通転位)が存在したり、高抵抗で移動度の高いGaN薄膜が得られなかったりという問題がある。これまでも、これらの問題を解決する手法は存在したが、どちらか一方の問題にしか対処できず、複雑な工程を必要とした。我々は、BGaNをバッファー層として初めて用いることにより、1回の結晶成長のみという簡単な工程で、2つの問題を同時に解決した。[1]
 BGaNは、Bの固溶度が低く相分離を起こしやすい。B組成がわずか2%であっても、相分離により2次元的な結晶成長が行われず、BGaNは図1に示したような多数の島状結晶を形成した。本来ならこのような3次元成長は半導体素子への応用を考えれば好ましくない。ところが、このようなBGaN島状結晶をバッファー層とし、更にGaN薄膜を成長したところ、島々の間を埋めるように横方向成長が起こり、最終的にGaN薄膜の表面は平滑で途切れなく一様になった。BGaNバッファー層を2層用いたGaN薄膜の断面透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図2に示す。GaNの横方向成長に伴い、貫通転位の折り曲げ、横伝播、half-loop形成、および、合体などが起こり、貫通転位密度は1/100 (2×108 cm-2)に低減した。このGaN薄膜は残留キャリア密度が極めて低いことが分かった。更に、本手法を用いてサファイア基板上に、GaN系トランジスタの基本構造であるAlGaN/GaNヘテロ構造を作製したところ、最高レベルの二次元電子ガス移動度(室温で1910 cm2/Vs)が得られた。
 本手法は、1回の結晶成長のみで、結晶欠陥が少なく電気的特性にも優れたGaN薄膜を安価なサファイア基板の全面に均一に形成できるので、GaN系トランジスタやレーザダイオードの低価格化や長寿命化のための基盤技術として非常に有望である。

[1] T. Akasaka and T. Makimoto, Jpn. J. Appl. Phys. (JJAP Express Letter) 44 (2005) L1506.

図1 BGaN島状結晶(バッファー層)の
電子顕微鏡写真
図2 BGaNバッファー層を用いた
GaN薄膜の断面TEM写真

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