FME法による高品質六方晶BNヘテロエピタキシャル成長

小林康之 赤坂哲也 牧本俊樹 
機能物質科学研究部

 六方晶BN(h-BN)は、5.97eVのバンドギャップと149meVの励起子束縛エネルギーを有するため、紫外領域の光デバイスや励起子をベースにした量子情報処理材料として期待されている。しかしながら、これまでのところ、エピタキシャル成長に適した基板上の高品質BN成長についての報告はない。2、3の論文が、従来の有機金属気相成長法によるBN成長について報告しているのみであり、結晶性を含む多くの基本的な問題が未解決のままである。
 未解決の問題の1つは、III族原料とV族原料の間で気層中で反応が生じるということである。流量変調エピタキシー法(FME)においては、III族原料とV族原料を交互に基板表面に供給するため、気相反応を最も効率的に抑制すると期待される。Ni(111)基板は、h-BNの面内の格子定数と非常に近い格子定数を有するため、高品質h-BN成長を実現する可能性を持っている。今回、我々は、FME法を用いて、Ni(111)基板上に初めてh-BNのヘテロエピタキシャル成長を実現した。
 図1はMOVPE法とFME法により成長したBNの成長速度のアンモニア(NH3)流量依存性である。MOVPE成長したBNにおいては、NH3流量を増加させることにより、BNの成長速度は単調に減少した。FME成長したBNの成長速度も、NH3流量の増加と共に、少しずつ減少したが、その減少量はMOVPE成長における減少量よりもはるかに低減されていた。これらの結果は、FME成長が気相反応を効果的に抑制することが可能であることを示している[1]。図2はFME成長したh-BNの2θ/ωのX線回折パターンである。Ni(111)回折ピークから離れたところに、h-BN(0001)面からの特徴的な鋭いh-BN (0002)と弱いh-BN (0004)ピークが観測され、その成長層が、Ni(111)表面に対してc軸が垂直な単結晶(0001)h-BNヘテロエピタキシャル層であることを示している[2]。
 今回の結果は、将来の光デバイス応用への道筋を切り開くものである。

[1] Y. Kobayashi and T. Makimoto, Jpn. J. Appl. Phys. 45 (2006) 3519.
[2] Y. Kobayashi et al. Abstracts of 13th International Conference on Metal Organic Vapor Phase Epitaxy, Th-A1.1 (2006).

図1 
MOVPEとFME法によるBN成長速度のNH3流量依存性
図2
h-BNのX線回折パターン

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