局所ホール効果を使った磁壁速度の測定

 

関根佳明1 新田淳作2,3
1量子電子物性研究部 2東北大学大学院工学研究科 3CREST-JST

 磁性細線の磁化反転時における両端からの漏れ磁場の時間変化を、局所ホール効果により調べ、磁壁速度を250 m/sと求めた。磁性材料は一般的にメモリー素子に使用されるが、磁壁の運動を制御することで論理素子が作製可能である。磁壁デバイスの作製には、磁壁の運動特性の把握が必要である。本研究では、磁壁の運動特性を調べるのに、局所ホール効果に注目し、本手法を使い磁壁の運動を捕捉が可能であることを確認した [1]。
 磁性細線からは、図1(a)試料模式図の中の点線で示めすように、漏れ磁場が存在する。細線の磁化反転過程では、片端で磁壁が生成され、その磁壁が他端に向かって移動し、端に到達すると磁壁は消滅する。磁壁の生成と消滅により、漏れ磁場の向きは反転する。このため両端での漏れ磁場の反転の時間差は、磁壁が細線を移動する時間に対応する。図1(b)に試料の光学顕微鏡写真を示す。磁性細線直下に作製した局所ホールプローブにより、漏れ磁場を検出した。磁性細線はNiFe、ホールプローブにはInGaAsの2次元電子ガス(2DEG)を用いている。実験では長さの異なる細線の試料を複数作製し、磁場は細線方向に印加した。図2(a)に磁化反転時におけるNiFe細線両端でのホール電圧(VH)の時間依存性を示す。VH1とVH2の変化には時間差があり、長い細線ではその時間差が大きいことが分かる。図2(b)に時間差(Δt)の細線の長さ(L)依存性を示す。時間差と長さは比例関係にあり、この傾きから磁壁速度を250 m/sと求めた。本研究結果は、磁壁の運動を局所ホール効果による手法で正確に捕捉可能であることを確認し、本手法が、磁壁の運動特性を調べる有効な手法であることを示した。これは磁壁デバイスの作製につながる結果である。

[1] Y. Sekine and J. Nitta, in Narrow Gap Semiconductors, Inst. Phys. Conf. Ser. No 187, edited by J. Kono and J. Léotin (Taylor & Francis, New York, 2006), p. 461.

図1 試料の(a) 断面模式図と(b) 光学顕微鏡写真。NiFeの両端から漏れ磁場(点線)を2DEGのホールプローブで検出する。写真中央の光沢のある部分がNiFe細線
 図2 (a) 磁化反転時のホール電圧の時間依存性。磁壁の生成と消滅時の漏れ磁場の向きの反転に対応して、VHが変化する。VH1とVH2の変化に時間差があり、NiFe細線の長さが長くなると時間差が大きくなる。(b) VH1とVH2の変化の時間差の長さ依存性。時間差と長さに比例関係があり、傾きから磁壁速度が250 m/sと求まる

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