周波数上方変換型光子検出器を用いた長距離、高速量子鍵配送

 

武居弘樹1 本庄利守1 井上恭2 
1量子光物性研究部 2大阪大学/NTTリサーチプロフェッサー

 差動位相シフト量子鍵配送(DPS-QKD)は、光子数分岐攻撃等の盗聴に対する耐性が高い方式として注目されている[1]。今回,周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)導波路中の周波数上方変換に基づく単一光子検出器(Up-conversion検出器)を用いてDPS-QKD実験を行い、鍵生成率および伝送距離を飛躍的に増大した[2]。
 実験系を図1(a)に示す。波長1560 nmの連続光を強度変調器によりクロック周波数1 GHz、半値幅100 psのパルス列に変調する。次に位相変調器を用いて各パルス位相を0またはπでランダムに変調した後、光減衰器によりパルスあたりの平均光子数を0.2程度に設定し、伝送用光ファイバに入力する。ファイバから出力されたパルス列はPLCマッハツェンダ干渉計に入力される。干渉計の2出力ポートから出力された光子は、それぞれUp-conversion検出器により受信される。Up-conversion検出器の構成を図1(b)に示す。 1.3 µmのポンプ光と合波された1.5 µm帯の光子は、PPLN導波路中の和周波発生過程により0.7 µm帯の光子に変換される。変換された光子は、光フィルタ系により残留ポンプ光等を抑圧した後、Silicon avalanche photodiode (Si-APD)により検出される。Si-APDは非同期モード動作が可能であるため、本実験のような高速クロックのシステムに適用することにより、鍵生成率を大幅に向上できる。
 実験結果を図2に示す。検出器の量子効率を9%、暗計数率を26 kHz(2個の和)に設定した場合のファイバ伝送実験結果を□で表す。20 kmのファイバ伝送時には455 kbit/sの安全鍵生成率を達成した。また、30 km以下の伝送距離で1 Mbit/sのシフト鍵生成率を確認した。次に、信号対雑音比向上のため、検出器の量子効率、暗計数率をそれぞれ2%、2.7 kHzに設定した。105 kmのファイバ伝送を行い、209 bit/sの安全鍵生成率を確認した(図2○)。△は[3]で報告されたBB84プロトコルを用いた安全鍵配送実験結果である。このように、従来報告に比べて、鍵生成率および配送距離を飛躍的に増大することができた。
今回の結果は、100 km超の量子鍵配送システム実現のための重要な一歩である。

[1] K. Inoue et al., Phys. Rev. Lett. 89 (2002) 037902.
[2] H. Takesue et al., New J. Phys. 7 (2005) 232.
[3] C. Gobby et al., Electron Lett. 40 (2004) 25.

図1 実験系 図2 安全鍵生成率

 


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