表面高調波のスペクトル干渉による極短レーザパルスの
キャリアエンベロープ位相計測

 

石澤淳 中野秀俊 
量子光物性研究部

 極短パルスレーザにおける包絡線に対する光電界振動の位相はキャリアエンベロープ位相(CEP)と呼ばれる。極短パルスレーザでは、CEPの値によって瞬時強度の尖頭値が大きく変化するため、光波と物質との相互作用、特に高次の非線形相互作用において大きな影響を及ぼすこととなる。そのため、極短光パルスを光非線形分光へ適用するときには、CEP絶対値の計測ならびに制御が重要である。
 従来、CEP絶対値を計測するには、光電界によるイオン化や高次高調波発生[1]等の高強度レーザパルスを原子や分子などに照射した場合に起こる高次の非線形光学現象を利用していた。これらの手法は、100 µJ以上の増幅光パルス、真空容器及び特殊な計測装置等が必要となり、CEP絶対値が計測可能なのは一部の研究所に限定される問題があった。
 今回我々は、固体表面から同時に発生する第二高調波と第三高調波間の干渉を利用したCEP直接計測方法を提案し、実証した。現在利用されている、パルスごとに生じるCEP変動を計測する方法は、非線形光学結晶内伝搬に伴う未知の位相が加わるためにCEPの絶対値は分からない。一方、固体表面から同時に発生する第二高調波と第三高調波はどちらも基本波からπ/2 radだけ位相シフトする。その結果、第二高調波と第三高調波間の干渉には未知の位相が含まれず、スペクトル干渉強度を測定することにより、CEP絶対値を測定することができる。この方法は、従来のCEP絶対値の計測法と比較して、2桁程度低いレーザエネルギーで、かつ、真空容器を用いずに、簡便な光学配置構成で測定できる利点がある。レーザパルスを斜入射でガラス表面へ集光すると、その表面で偶数次と奇数次の高調波が発生する。このとき、極短パルスレーザのスペクトル幅が広いため、第二高調波スペクトルの高周波成分と第三高調波スペクトルの低周波成分が重畳する(図1)。我々は、重畳した領域のスペクトル強度を観測し、CEPに依存して周期的な変化をする干渉信号の計測に成功した(図2)[2]。今後、この計測を使用して超短パルスレーザ増幅システムのCEP絶対値を検出し、フィードバック回路を構成することにより、長時間CEP安定化された極短パルスレーザ増幅システムの構築を目指す。

[1] A. Baltuska, et al., Nature. 421 (2003) 611.
[2] A. Ishizawa and H. Nakano, Jpn. J. Appl. Phys. 45 (2006) 4087.

 

図1 極短レーザパルスのスペクトル 図2 干渉強度のCEP依存性

【前ページ】 【目次へもどる】 【次ページ】