逆VLS機構により形成されるナノホール

 

舘野功太 後藤秀樹 中野秀俊 
量子光物性研究部

 ナノデバイスに適したナノホール作製法として、高アスペクト比のアルミナのナノホールを形成する陽極酸化法や、フォトニック結晶などで用いられる電子ビームリソグラフィかつ反応性イオンエッチングによるトップダウン的なホール形成技術がある。ここでは新たにAu微粒子を用いたボトムアップ的なナノホール形成技術を報告する。この手法はVLS (vapor-liquid-solid) 機構の逆過程によるものである。
 VLS機構はフリースタンディング型の半導体ナノワイヤの成長機構としてよく知られている。VLS機構のポイントは 400-500度付近の低い温度で液状の金属合金微粒子を触媒として用いるところにある。Au微粒子を触媒として用いたGaAsナノワイヤの場合、熱力学的にバランスの取れた気体-液体-固体の系でGaとAsはAu微粒子中に同じ量を維持しようとする。そのため、GaとAsを供給すると金微粒子中は過飽和になり成長が起こる。逆VLS過程、つまりエッチング過程の概念はエッチングガスを供給することでAu微粒子からGaとAsが除かれるとAu微粒子と基板の境界ではAu微粒子中のGaとAsの濃度を維持するため基板からのGaとAsの溶け込みが起こり、その結果先端のAu微粒子からホールが形成されるというものである。我々は初めてGaAsとInP基板において逆VLS機構によるナノホールを示すことができた[1]。
 エッチングは減圧 (76 Torr) のMOVPEリアクタ内で行った。エッチングガスは四臭化炭素 (CBr4) を用いた。X族ガスとしてAsH3とPH3を用い、エッチング温度まで供給した。Auを蒸着したGaAsとInP基板を用いてエッチングを行った。InPサンプルはエッチング速度を小さくするためPH3をエッチング中に供給した。
 ナノホールは [111]B 方向に進行しやすいことが分かった。GaAsの場合、まっすぐなホールが [011] 方向(図1)や [211]B 方向に時折見られた。これは {111}B ファセットがエッチングを妨げることによる。InPの場合、図2に見られるようにたくさんのまっすぐなホールが [111]B 方向に見られた。 どちらの材料でも表面を直接エッチングする過程も起こる。したがってナノホール形成に高い選択性を持つエッチング条件の最適化が必要である。このホール形成手法はいろいろな種類のナノデバイスへの応用が考えられる。また、ナノサイエンス、テクノロジーへの貢献が期待される。

[1] K. Tateno et al., Jpn. J. Appl. Phys. 44 (2005) L428.

 

図1 GaAs (111)A基板に形成された [011] 方向ナノホールの断面SEM写真
  図2 InP (111)A基板に形成された [111]B 方向ナノホールの断面SEM写真

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