量子ドットにおける励起子・励起子分子を用いた光非線形

 

後藤秀樹 鎌田英彦 
量子光物性研究部

 半導体量子ドットは、特徴のある物性の発現と、量子デバイス応用の期待から注目を集めている。量子ドットは、ナノメータスケールの完全な閉じ込め構造であるため、励起子および励起子分子(励起子2個が結合した状態)が安定に存在する。この構造中では、励起子-励起子分子間のコヒーレントな相互作用が起こり、量子相関効果やElectromagnetically induced transparency (EIT)に類似した光非線形効果が期待できる。これは、現在の光デバイスのみならず、将来の量子情報処理に対しても非常に有用である。
 我々は、InGaAs量子ドットにおいて、単一ドットフォトルミネッセンス法(PLE)を用いて、強い光非線形現象を見出した。これは、孤立した量子ドットにおける励起子と励起子分子間のコヒーレントな相互作用が原因である[1、2]。
 図1は、2種類の励起強度に対する、励起子(X)と励起子分子(XX)のPLEスペクトルである。これは、吸収スペクトルに相当する。低励起強度では、X、XXともピーク状のスペクトルとなっている。高励起強度では、XXのスペクトルは、通常の幅の広がったピーク状のスペクトルであるが、Xのスペクトルは、通常とは異なる窪み状のスペクトルを示している。XとXXのコヒーレントな相互作用が、このスペクトルの原因であると解釈でき、この現象は、EITと極めて類似している。この現象を光非線形の観点から評価するため、ポンププローブ測定を行った。実験では、干渉計を用いて励起光を照射し、XとXXのPLを測定した。図2は、その結果であり、PLの非線形成分をポンプ光強度の関数として示している。図では、XXのPLは300µWから飽和している。これに対し、XのPLは100µWまでは増加するが、それ以上では減少している。この減少効果は、光非線形そのものであり、XとXXの間のコヒーレント効果の現れであると解釈できる。これらの結果は、量子ドットにおいてEITに類似した光非線形効果が得られることを明瞭に示している。
 今回の結果は、量子計算実現のステップとなると共に、新規光デバイス実現にもつながる成果である。

[1] H. Gotoh et al., Phys. Rev. B71 (2005) 195334.
[2] H. Gotoh et al., Appl. Phys. Lett. 87 (2005) 102101.

図1  2種類の励起強度に対するPLEスペクトル
 図2  非線形PL強度

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