フォトニック結晶共振器を用いた全光フリップフロップ回路

 

新家昭彦 田辺孝純 倉持栄一 川西悟基 納富雅也
量子光物性研究部

 全光フリップフロップ回路は、一時的に過去と現在の情報を記憶しそれらを演算処理するデジタル回路であり、将来の全光高速信号処理回路で全光再生機能を達成するために必要不可欠である。ここで求められる最も重要な機能の1つは、入力パルス列をシステムのクロックに同期させることである。しかし、これまでに提案された全光フリップフロップ回路は、小型化が難しく、動作速度を速くできないなどの問題があった。
 この問題に打ち勝つため、我々は、光デバイスを波長程度まで小型化するためのプラットフォームとして注目されているフォトニック結晶(PhC)をベースとする光回路の検討を行っている。図1は三角格子空気穴2次元PhCをベースとするフリップフロップ回路の構成図である[1]。その格子定数aは400nm、空気穴直径は0.55aである。2つの共振器(C1、C2)は1つの共通の共鳴波長(λ1)を有し、2つの異なる共鳴波長(C1、C2に対しそれぞれλ1、λ3)を持つ。導波路(WG1、WG2)は、λ1とλ3の光は両方の導波路を通ることができるが、λ2の光はWG1だけを通るように設定されている。
 ここで、NRZ形式の入力データ(DATA:波長λ2=1548nm)がシステムの内部クロックからずれている状況を考える。入力データのクロック同期達成のため、2つの共振器が双安定動作をするように全ての光(λ1、λ2、λ3)のパワーを60mWに設定し、クロックに2種類の信号(CLOCK:波長λ3=1463nm、CLOCK:波長λ1=1493nm)を用いた。計算には、PhCの媒質としてAlGaAsを想定し、その非線形効果を考慮に入れた2次元FDTD法でシミュレーションを行った。
 図2は我々のシステムのシミュレーション結果である。この図は、我々の回路が、システムのクロックに同期した理想データ(図中点線)と、クロック信号のAND信号を出力していることを示している。つまり、この回路は入力データをクロックに同期させ、理想的なデータをRZフォーマットで出力している。回路の応答速度は約10psであり、これは我々のシステムが50GHzクロックで動作できることを示している。
 この結果は、全光デジタル信号処理の実現への第一歩である。

[1] A. Shinya, S. Mitsugi, T. Tanabe, M. Notomi, I. Yokohama, H. Takara, and S. Kawanishi, Optics Express 14 (2006) 1230.

図1 フリップフロップ回路の構造図 図2 システムのタイムチャート

【前ページ】 【目次へもどる】 【次ページ】