共振器の動的チューニングによる断熱的波長変換

 

納富雅也 
量子光物性研究部

 光の波長は光波長多重通信など光技術のあらゆる側面で利用されている、光の最も重要なパラメータである。波長可変レーザ等により任意の波長を発生させることは難しいことではないが、いったん光が発生してしまうと、その後に波長を変えるのは実は簡単ではない。一般に特殊な結晶の中に生じる光誘起高次分極を用いた光非線形現象によって光の高調波を出す方法がとられているが、高次分極を用いるために大きな光強度を必要とする。我々は最近、超小型で長い光子寿命を持つ光共振器を用いると、全く異なる原理で線形に波長を変換させることが可能であることを理論的に見出した。
波長可変プロセスは次のとおりである。光共振器に光パルスを蓄積し、共振器の光子寿命よりも短い時間内に共振器の共振波長を動的に変化させると、断熱的パラメータ変化過程により蓄積された光の波長は、動的変化後の共振波長に追随して変換される。我々はこの現象を現実的に作製可能なシリコンフォトニック結晶ナノ共振器構造を仮定して、電磁界解析による数値実験で確認した。この現象は、線形現象であり、被変換光の強度に依存せず100%の波長変換が実現可能である点が、従来の高次分極を使った非線形波長変換と異なる。むしろこの現象は、古典的な振動系におけるパラメータチューニングと等価な現象であり、分かりやすい例としては、ギターの弦を鳴らした後で、音の響きが消える前にペッグを回して音程を変える工程と等価である。光の領域では従来光の伝播速度が速すぎ、減衰時間が短すぎるため、このような現象が考慮されてこなかったが、近年の高Q共振器の技術的進展により、実現可能となってきたのである。我々は、数値実験において、この波長変換過程においてエネルギーを振動数で割った量が保存していること確認しており、断熱的パラメータチューニング過程であることを確認している。
この系では単一光子でさえも100%の効率で波長変換できるはずであり、今後この現象の特徴を実験的に実証していくことを予定している。

[1] M. Notomi and S. Mitsugi, Phys. Rev. A73 (2006) 051803(R) .

図1  (a) 計算に用いたフォトニック結晶共振器。(b) 計算で仮定した動的屈折率変化。(c) 動的変化なしの場合とありの場合の光パルスの波長スペクトル

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