最大発振周波数120GHzのダイヤモンドFET

植田研二 嘉数 誠
機能物質科学研究部

 ダイヤモンドは高移動度(電子:4500、正孔:3800 cm2/Vs)、高絶縁破壊電界強度(>10MV/cm)、物質中最大の熱伝導度(22W/cmK)等の優れた物性を持つことから高周波大出力デバイスとして期待されている。我々は現在までに、高品質ホモエピタキシャルダイヤモンド単結晶薄膜を用いてFETを作製し、動作周波数1GHzで出力電力密度2.1W/mmを得ている[1]。この値は携帯電話等の基地局に用いられる大電力出力素子として十分な値である。しかし、ホモエピタキシャルダイヤモンドのサイズは市販の高温高圧合成基板のサイズで制約されるため、4mm角以下であり、半導体プロセスで要求される4インチに比べて極めて小さい。そこで、我々は、4インチまで大面積化可能な多結晶ダイヤモンドでもグレインサイズがデバイスサイズと同程度なら十分に応用できると考え、グレインサイズが十分に大きな高品質多結晶ダイヤモンド上にFETを作製し、高周波測定を行った。
 使用した多結晶ダイヤモンドはCVD法により成長した自立膜である(寸法:10×10×0.5mm)。多結晶ダイヤモンド表面を水素終端化し、表面近傍に擬二次元正孔チャンネルを形成した後、Auを蒸着し、ソースおよびドレイン電極を形成した。電子ビーム露光と自己整合技術によりAlゲート電極(LG=0.1μm)を水素終端表面に形成し、FETを作製した(図1)。
 多結晶ダイヤモンドFETの最大DCドレイン電流値(IDS)はゲート電圧(VGS)が -3.5 Vの時に 550 mA/mmとなった。この値は、ホモエピタキシャルダイヤモンド単結晶FETの最高値に匹敵する。また、相互コンダクタンス(gm)は広いVGSの範囲で〜140mS/mmの値が得られた。図2に高周波特性を示す。電流利得(|h21|2 、電力利得(U)の周波数特性の測定結果から-6dB/octの傾きで外挿して求めた遷移周波数(fT)および最大発振周波数(fmax)は120GHzとなり、別のバイアス条件で、fT=45GHzが得られた。これらの値はダイヤモンドFETで最高値である[2]。

[1] M. Kasu, K. Ueda, H. Ye, Y. Yamauchi, et al., Electron. Lett. 41 (2005) 1249. 
[2] K. Ueda, M. Kasu, Y. Yamauchi, et al., IEEE Electron Device Lett. 27 (2006) 570.

図1 多結晶ダイヤモンドFETの断面構造 図2 FETの高周波特性

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