六方晶BNヘテロエピタキシャル層からの紫外発光

小林康之 赤坂哲也 牧本俊樹
機能物質科学研究部

 六方晶BN(h-BN)は、励起子を利用した量子情報処理および深紫外領域の光デバイス応用に向けて有望な材料である。その光学特性の解明、pn接合や量子井戸構造からなる光デバイス作製のためには、適切な基板上に高品質h-BN層を成長することが、不可欠である。過去数十年間、様々な方法でBN薄膜が成長されている。しかしながら、これらのBN薄膜から室温において紫外発光の報告はなかった。
 近年、我々はトリエチルボロンとアンモニア(NH3)を用いた流量変調エピタキシ法(FME)により、Ni(111)基板上に単結晶h-BNヘテロエピタキシャル層の成長に成功した[1]。ここでは、そのh-BNヘテロエピタキシャル層からの室温でのカソードルミネッセンス(CL)による波長227nmのバンド端近傍(NBG)発光の観測について報告する[2]。
 図1にNH3流量700sccm、NH3供給時間1, 2, 3秒でFME成長したh-BNのCLスペクトルを示す。5.47eV(227nm)にピークを有するNBG紫外発光と3.85eV(322nm)にピークを有するブロードな深い準位からの発光が、NH3供給時間3秒で成長したh-BN層から明瞭に観測される。室温でのこのような支配的なNBG発光の観測は、我々の知る限り初めてである。NBG発光ピーク強度は、NH3供給時間の増加とともに単調に増加することから、より長いNH3供給時間でのh-BN成長が、より強いNBG発光を得るために望ましいことが分かる。
 図2に、c軸格子定数と(0002)h-BN X線ロッキングカーブ(XRC)の半値幅(FWHM)のNH3供給時間依存性を示す。3サンプルの全てのc軸格子定数は、バルクh-BNの値に一致する。NH3供給時間を1秒から3秒に増加させると、XRCのFWHMは、1.5から0.7°に減少する。0.7°のFWHMは、今までに報告された中で最も狭い値である。長いNH3供給時間での低成長速度とより大流量NH3供給がh-BN層中の格子欠陥を減少させ、その結果としてより強いNBG紫外発光に結びついたことを示している。
 今回の結果は、h-BN光デバイス実現の究極の目標に向けた第一歩である。

[1] Y. Kobayashi, et al., J. Cryst. Growth 298 (2007) 325.
[2] Y. Kobayashi, et al., Phys. Stat. Sol. (b) 244 (2007) 1789.

 
図1
FME成長h-BN層の室温CLスペクトル
図2 格子定数とXRC FWHMのNH3供給時間依存性

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