磁性細線中に捕捉された磁壁の半導体・強磁性体ハイブリット構造を用いた検出

 

関根佳明1 赤崎達志1 新田淳作2,3
1量子電子物性研究部 2東北大学大学院工学研究科 3CREST-JST

 磁性細線中に捕捉された磁壁を半導体・磁性体ハイブリット構造の局所ホール効果を用いた素子により検出した。局所ホール効果は磁性体からの漏れ磁場を検出し、磁壁内部構造を調べられるため、head-to-headかtail-to-tailの磁壁かを区別することができた[1]。
 磁性体が磁壁の運動を利用した論理回路や記憶素子が提案されるなど、磁壁の位置を検出し、その構造を調べることは重要である。本研究の半導体・磁性体ハイブリット構造を用いた局所ホール効果による磁壁の観測手法は、磁性体の形状に依存しない、温度変化が容易、信号がmV程度と大きいなどの利点がある。試料には二次元電子ガスとしてInGaAs、磁性細線としてNiFeを用いた。図1(a)に試料の電子顕微鏡写真、(b)に模式断面図、(c)、(d)にtail-to-tail、head-to-headの磁壁がくびれに補足された試料の模式平面図を示す。NiFe細線の片端を直角、他端を先細、真ん中にくびれを、そしてそれぞれの直下にホール素子を作製した。磁場は二次元電子ガスに平行かつ細線方向に印加した。磁壁はそのエネルギーを最低にするよう直角の端で生成されるため、磁場の印加方向により、head-to-headかtail-to-tailの磁壁を生成できる。生成された磁壁は先細の他端に向かって移動するが、くびれで捕捉される。磁壁生成や捕捉により、磁性細線からの漏れ磁場は変化するので、直下のホール素子により検出できる。図2に三つのホール素子のホール抵抗の磁場依存性を示す。ここで、 ryx1、2、3は直角、くびれ、先細のホール抵抗である。磁場Bを増加させると、22 mTで ryx1が、26 mTでryx2が急激に変化する。そして22と26 mTの間で、 r yx2が鋭い山を示す。これら ryx1、2、3の変化は、それぞれ磁場の生成、補足、消滅に対応している。磁場を減少させると同様のことが起こるが、 ryx2は鋭い谷を示し、tail-to-tailかhead-to-headの磁壁かを区別することができた。この結果は、本素子構造を用いた磁壁の観測手法が、磁壁の運動特性を調べる有効な手法であることを示しており、磁壁デバイスの作製につながる成果である。

[1] Y. Sekine, et al., AIP Conference Proceedings 893 (2007) 1291.

図1 (a) 試料電子顕微鏡像。(b) 試料断面図。
(c) tail-to-tail磁壁、(d) head-to-head磁壁の試料平面図
 図2 ホール抵抗の磁場依存性。磁場方向によりくびれ(ryx2)に補足される磁壁構造が異なる

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