10 GHzクロックの量子暗号実験

 

武居弘樹1 Eleni Diamanti2 Carsten Langrock2 Martin M. Fejer2 山本喜久2
1量子光物性研究部 2スタンフォード大学

 量子暗号システムの実用化のためには、鍵生成率の高速化が不可欠である。今回、周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)導波路中の周波数上方変換に基づく単一光子検出器(Up-conversion detector : UCD) [1]の低ジッタ化を行い、該検出器を用いて10 GHzのクロック周波数における超高速量子暗号実験を行った[2]。
 量子暗号プロトコルとして、差動位相シフト量子鍵配送プロトコル[3]を用いた。強制モード同期ファイバレーザから出力された中心波長1551 nm、繰返し周波数10 GHz, 半値幅10 psのパルス列の各パルスの位相を0またはπでランダムに変調した後、光減衰器によりパルス当たりの平均光子数を0.2に設定し、伝送用光ファイバに入力する。ファイバから出力されたパルス列はPLCマッハツェンダ干渉計に入力される。干渉計の2出力ポートから出力された光子は、それぞれUCDに入力される。UCDにおいては、信号光子は波長1319 nmのポンプ光と合波され、PPLN導波路に入力される。導波路中の和周波発生過程により、信号光子は波長700 nm近辺の光子に波長変換される。光フィルタ系により残余ポンプ光などの雑音を抑圧した後、波長変換後の光子を低ジッタSi APDにより受信する。本検出器により、高い時間分解能で高速繰返しの光子パルス列を受信することが可能となる。
 図1に幅3 psのパルスを入力した場合のUCDの検出信号ヒストグラムを示す。検出信号ジッタは、非常に小さな半値幅(約30 ps)を持つ一方で、大きなテイルを持つことが観測された。UCDの量子効率を0.3%、暗計数率を750 cps (2個の和)、タイムウィンドウ幅を10 psに設定し、10, 25, 75, 100 kmのファイバを用いてシフト鍵生成実験を行った。100 kmにおけるシフト鍵生成率は3.7 kbit/sであった。各ファイバ長における誤り率を図2の■で示す。ジッタのテイル特性のため、誤り率は10%程度に制限された。一方、伝送距離を変化させても誤り率の変動は非常に小さい。これは、光源の短パルス化と、タイムウィンドウの狭幅化により、スロット当たりの信号と暗計数の比が向上したためである。暗計数に起因する誤り率の予測値(図2●)は、100 kmの伝送後も1%未満に抑圧されている。 よって、UCDジッタのテイル特性の改善により、誤り特性の飛躍的改善が今後期待できる。

[1] C. Langrock, et al., Opt. Lett. 30 (2005) 1725.
[2] H. Takesue, et al., Opt. Express 14 (2006) 9522.
[3] K. Inoue, E. Waks, and Y. Yamamoto, Phys. Rev. Lett. 89 (2002) 037902.

図1 検出信号のヒストグラム
  
図2 ファイバ伝送距離と誤り率
 

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