もつれ光子対列を用いた差動位相量子鍵配送

 

本庄利守 武居弘樹 井上 恭2
量子光物性研究部  2大阪大学/NTTリサーチプロフェッサー

 量子力学の原理に基づいて絶対安全な通信を提供する量子鍵配送の研究が盛んに行われている。我々は、コヒーレントな光パルス列の位相差にビット情報を載せる方式である差動位相シフト量子鍵配送(DPS-QKD)の研究を勢力的に進めてきた。今回、次のステップとして、高度な量子鍵配送方式であるもつれ光子対を用いた量子鍵配送の研究に着手した[1]。
 図1に実験構成を示す。波長1551nm、繰返し1GHzの光パルス列をポンプ光として分散シフトファイバに入れ、時間位置もつれ光パルス列を発生させた[2]。ラマン散乱によるノイズ光子の発生を抑えるために、分散シフトファイバは液体窒素で冷却している。シグナルとアイドラを分波した後、それぞれをアリスとボブに送付した。アリス側とボブ側では、それぞれ各パルスをランダムに0もしくはπ/2で位相変調した後、PLC Mach-Zehnder干渉計を通過させた。双方の干渉計の位相差の和が0となるように調整すると、アリス、ボブの光子検出イベントの間には、次のような相関関係が現れる。



θaと θbはアリスとボブの施した位相変調、 |wn〉はアリス(A)、ボブ(B)が検出器1もしくは2で光子を検出する状態を表す。上述の相関関係を用いて、光子伝送後、古典チャネルを介してアリスとボブが光子を検出した時刻、施した位相変調を公開することにより、暗号鍵を生成する。
 上述のセットアップを用いてシフト鍵の生成を行い、QBER 8.6%、シフト鍵生成レート 0.3bpsを得た[3]。本成果は、本量子鍵配送方式の実現性を示すとともに、もつれ光子対を用いた量子通信の実現に向けた重要な第一歩を示す。

[1] K. Inoue, Phys. Rev. A 71 (2005) 032301.
[2] H. Takesue and K. Inoue, Opt. Express 13 (2005) 7832.
[3] T. Honjo, H. Takesue, and K. Inoue, Opt. Lett. 32 (2007) 1165.
 

図1 セットアップ

 


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