AIN遠紫外LEDの負の結晶場分裂エネルギーによる偏光特性

谷保芳孝 嘉数 誠
機能物質科学研究部

 窒化アルミニウム(AlN)は、直接遷移型半導体で最大のバンドギャップ6 eVを有することから、波長210 nmで発光する最短波長発光半導体として期待される。我々は、これまでに、世界に先駆け、AlNのp型およびn型ドーピングを実現し、発光ダイオード(LED)の動作に成功した。今回、AlN LEDの発光機構を明らかにするため、その放射特性を評価した。
 アンドープAlN発光層をn型SiドープAlN層とp型MgドープAlN層で挟んだLED構造をSiC(0001)基板上に有機金属気相成長法により成長した。図1に、AlN LEDの発光スペクトルの放射角度依存性を示す。放射角度θは、デバイス表面方向であるAlNのc軸[0001]方位から検出方向へのなす角度とした。放射角度を増加すると、波長210 nmのAlNのバンド端発光強度は増加した。この理由を調べるため、図2に示すように、バンド端発光強度と放射角度の関係を解析した。図中の実線は各偏光度Pにおける計算値である。P = 1は光の電場ベクトルEがc軸と平行に偏光している場合(E//c)、P = −1は光の電場ベクトルEがc軸と垂直に偏光している場合(E⊥c)、P = 0は無偏光の場合を示している。測定値は P = 0.995の計算値と良く一致し、バンド端発光はE//cに強く偏光していることが分かる。これにより、AlNでは、c軸方向への発光は弱く、c軸と垂直方向への発光は強くなるため、図1で観測したように、c軸からの放射角度が増加すると、発光強度が増加することが分かった[1]。
 この強い偏光性の起源は、AlNのバンド構造により説明できる。AlNは強いイオン性により結晶格子が大きくゆがんでいる。このため、結晶場分裂エネルギーが負となり、価電子帯の最上端には、Γ7Vバンドが位置する。この価電子帯Γ7Vと伝導帯Γ7C間の光学遷移選択則は、E//cは許容、E⊥cはほぼ禁制となるため、バンド端発光はE//cに強く偏光する。AlNの結晶場分裂エネルギーΔCRY = −230 meVとスピン軌道相互作用エネルギーΔSO = 20 meVからE//cとE⊥c偏光の光学遷移確率を計算して偏光度を求めると0.997であり、上記の値と良く一致した。このように、我々は、負の結晶分裂エネルギーにより、AlNからの発光は強く偏光していることを明らかにした。
 本研究の一部は科学研究費補助金若手研究(A)(No.19686003)の援助によるものである。

[1] Y. Taniyasu, M. Kasu, and T. Makimoto, Appl. Phys. Lett. 90(2007)261911.

図1 AlN発光ダイオードの放射特性 図2 発光強度と放射角度の関係

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