イオン注入と高温高圧アニールによるダイヤモンドへのドーピング

植田研二 嘉数 誠
機能物質科学研究部

 イオン注入は半導体のドーピング法として幅広く用いられているが、高エネルギープロセスである為、イオン注入時に結晶に大きな損傷が生じるという問題がある。SiやGaAsの場合、この損傷は、真空アニール等の熱アニールにより容易に回復できる。しかし、ダイヤモンドの場合、イオン注入時の損傷は熱アニールでは回復せず、ドーパントが充分に活性化しない。これは、ダイヤモンドが低圧下では準安定相(図1)であり、熱アニール時やイオン注入時に安定相であるグラファイトに変化するからである。そこで我々は、イオン注入時の損傷回復を、ダイヤモンド相が安定である高圧下でアニールすることにより試みた[1, 2]。
 マイクロ波プラズマCVD法により、(100)ダイヤモンドIb基板上にホモエピタキシャルダイヤモンド薄膜を1〜3.5 µm成長した。その後、ホモエピタキシャル薄膜にホウ素(B)イオンを加速電圧60 keV、ドーズ量1×1015 cm-2の条件で注入し、〜7 GPaの圧力下でアニールを行い、ドーパントの活性化を行った。また、同条件でB注入した薄膜の熱アニール(真空アニール)も行い、両者の特性の比較を行った。
 図2に、ホール測定から得られたBのドーピング効率(活性化したドーパントの濃度に対するドーピング濃度の比率)のアニール温度依存性を示す。高温高圧アニールを用いた場合、Bのドーピング効率はアニール温度の上昇とともに指数関数的に増加し、1400 ℃で7.1%となった。一方、熱アニール(真空アニール)を用いた場合、ドーピング効率は線形に増加し、1400 ℃で0.73%となった。このように、高温高圧アニールを用いた場合、従来手法より10倍高いドーピング効率が得られた。また、室温移動度は632 cm2/Vsが得られたが、この値はイオン注入法により作製されたBドープダイヤモンド薄膜で最高値である。これらの結果は、高温高圧アニールがイオン注入したドーパントの活性化に非常に有効であることを示している。
 なお、この研究の一部は総務省SCOPE「ダイヤモンド高周波電力デバイス」プロジェクトの委託で行われた。

[1] K. Ueda, M. Kasu, A. Tallaire, and T. Makimoto, Diamond Relat. Mater. 15 (2006) 1789.
[2] K. Ueda, M. Kasu, and T. Makimoto, Appl. Phys. Lett. 90 (2007) 122102.

図1  炭素の相図における高温高圧アニールと熱アニール条件の比較
図2  Bのドーピング効率のアニール手法による比較

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