ダイヤモンドFETの擬二次元正孔チャンネル

嘉数 誠 植田研二
機能物質科学研究部

 ダイヤモンドは、半導体の中で最も優れた高周波電力デバイス特性を示すことが予想されている。我々は、ゲート長0.1 µmのFETの高周波小信号特性から電流利得遮断周波数(遷移周波数fT)として45 GHz、電力利得遮断周波数(最大発振周波数fMAX) として120 GHzという高い値を得ている。また高周波大信号特性測定(1 GHz)から最大出力電力密度POUTとして2.1 W/mmを得ている。しかしこのFETで用いられている水素終端のp型ドーピング機構やダイヤモンドFETの動作原理は分かっていなかった。そこで高周波特性測定結果を解析し、それらの解明を試みた。
 図1は、Sパラメータ測定結果から求めたゲート容量CGS、相互コンダクタンスgmのゲート電圧VGS依存性である[1]。VGSが−0.5〜−2.0 Vの範囲で、CGSが一定になることが分かった。この特性は、ゲート金属と二次元正孔チャンネルとの間に、正孔に対するエネルギー障壁(界面層)が存在することを示している。ゲート電圧に対して界面層容量は一定だからである。これらの特性から、図2のようなダイヤモンドFETのバンドダイヤグラムが導かれた。実際のデバイス作製プロセスでは、Alゲート金属は水素終端ダイヤモンドに直接蒸着しているが、デバイスはMISFET的な振る舞いをすることが分かった。
 図1から一定になるCGS値は0.037 pFであり、ゲート面積当り0.74 µF/cm2になる。この値からダイヤモンド、Al2O3の比誘電率を仮定し、界面層の厚さを見積もると7〜10 nmになった。断面TEM観察を行ったところ、厚さ7〜10 nmの界面層がAlゲート金属と水素終端ダイヤモンドの間に自然形成していることを確認し、我々の測定結果を裏付けることができた[2]。
 本研究の一部は総務省SCOPE「ダイヤモンド高周波電力デバイス」プロジェクトによるものである。

[1] M. Kasu, et al., Appl. Phys. Lett. 90 (2007) 043509.
[2] M. Kasu, et al., Diamond and Relat. Mater. 17 (2008) in press.

図1  ダイヤモンドFETのゲート容量と相互コンダクタンスのゲート電圧依存性
図2  ダイヤモンドFETのバンドダイヤグラム

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