カーボンナノチューブの低エネルギー照射損傷

鈴木 哲 小林慶裕
機能物質科学研究部

 カーボンナノチューブは、ナノメートルオーダーの微細な径を有し、良好な電気的、化学的、機械的特性を持つことから次世代のナノエレクトロニクス材料として期待されている物質である。これまでに我々は、カーボンナノチューブが低エネルギーの電子や光子の照射により損傷を受けること、適度な損傷によりナノチューブの電気特性が金属的から半導体的、さらに絶縁体的にと大きく変化することを報告してきた[1]。今回我々は、欠陥生成メカニズムや欠陥構造を探るため、低エネルギー照射によって生成する欠陥の性質を明らかにした。
 高エネルギー粒子の照射により発生するノックオン損傷では、弾き出された原子が消失するためアニールしても元の状態に戻ることはない。一方低エネルギー照射損傷は、回復させることができることが大きな特徴の1つである[2]。図1に光子照射前後およびアニール後のナノチューブの呼吸振動のラマンスペクトルを示す。呼吸振動の周波数はナノチューブ径に依存し、細いナノチューブほど高い周波数で振動する。照射後には損傷により一部の太いナノチューブを除いてほぼスペクトルが消失するが、アニールによって強度が回復することが分かる。この結果は、低エネルギー照射損傷の場合、欠陥生成に伴い炭素原子数は保存していることを示している。さらに、損傷や回復はナノチューブ径に強く依存し、細いナノチューブほど損傷を受けやすく(図1)、回復もしにくいこと、損傷の回復する温度は非常に低く、室温あるいはそれ以下の温度でも回復が起こることが明らかとなった。また、損傷の回復過程を電気伝導度を用いて観測することにより、欠陥修復の活性化エネルギーは約1 eVと求められた(ただし直径に依存する) [3]。一方、分光した真空紫外線の照射実験から、欠陥生成に必要なエネルギーは約6 eVであることが分かった。欠陥の生成、修復のエネルギーダイアグラムは図2のようにまとめられる。今後は欠陥構造の決定と欠陥エンジニアリングによるナノチューブデバイスの制御を図る。

[1] A. Vijayaraghavan, et al., Nano Lett. 5 (2005) 1575.
[2] S. Suzuki and Y. Kobayashi, Chem. Phys. Lett. 430 (2006) 370.
[3] S. Suzuki and Y. Kobayashi, J. Phys. Chem. C 111 (2007) 4524.

図1  AlN発光ダイオードの構造
図2  AlN発光ダイオードの発光スペクトラム

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