CVD成長温度でのカーボンナノチューブのRamanスペクトル測定とカイラリティ帰属

内田貴司 小林慶裕
機能物質科学研究部

 カーボンナノチューブ(CNT)の材料としての面白さは、グラフェンシートの巻き方すなわちカイラリティに依存して電子状態が金属的にも半導体的にもなり得ることである。CNTデバイス実用化には、特定のカイラリティを持つCNTの合成が必須である。これまで我々は、カイラリティ作り分けを目的として、成長過程のその場Raman観察によるCNT成長機構の解析を進めてきた。Ramanスペクトルは物質の振動状態を観察するため温度に敏感である。数百℃の成長温度において、その場Raman観察による成長機構の詳細な解析を行うためには、CNTのRamanスペクトルにおける温度効果を十分に理解しなければならない。
 図1はCVD成長後のCNT試料の原子間力顕微鏡像である。CNTは熱酸化Si基板上に成長している。この試料ではそれぞれのCNTがほぼ孤立した状態にあることが分かる。図2に、室温における光学遷移エネルギーとradial breathingモード(RBM)波数との関係をCNTのカイラリティごとに示すKatauraプロットと、室温とCVD成長温度(720 ℃)において観察されたRamanスペクトルのRBM領域を示す。室温におけるスペクトルは、Katauraプロットとの対応により図2(b)のようにカイラリティが帰属できる。一般的に、Ramanスペクトルでは温度上昇に伴い、ピーク波数の低波数シフトやピーク強度の減少などが観測される。本研究の場合も、CVD成長温度では、室温のスペクトルに比べてピーク波数が低波数側にシフトしている。一方、ピーク強度については、210 cm-1付近のピークのように、温度上昇とともに増大するものも観察される。これは、光学遷移エネルギーが温度上昇とともに減少し、共鳴条件が変化したためと考えられる。すなわち図2(a)のように、Katauraプロット中の各点は温度上昇とともに低波数側・低エネルギー側にシフトすることが分かる。この結果から、CVD成長温度で顕著に観察されるピークについても図2(b)のようにカイラリティ帰属が可能となった[1]。
 本研究は、その場Raman観察によるカイラリティを識別した成長機構の解析に寄与するものである。今後さらに解析を進め、成長機構を解明しカイラリティ制御成長を実現する。

[1] T. Uchida, et al., Appl. Surf. Sci., in press.

図1  CVD成長したCNT試料表面の原子間力顕微鏡像
図2  (a)Katauraプロット、(b)室温とCVD成長温度におけるRamanスペクトルとカイラリティ帰属

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