原子間力顕微鏡による膜タンパク質の弾性測定

住友弘二1 Ari M. Siitonen1 Chandra S. Ramanujan2 篠崎陽一1
1機能物質科学研究部 2オックスフォード大

 原子間力顕微鏡(AFM)用いて、ナノ構造上を架橋した紫膜(光感受性タンパク質であるバクテリオロドプシンを含む)の力学特性を調べた。生体膜の特性を、基板の影響を受けずに測定することに成功した。このような膜タンパク質と脂質膜から構成される生体膜は、単分子バイオセンサをはじめとした多くのデバイス応用が期待される重要なナノ構造であり、その力学特性を知ることは、デバイス構築のために不可欠である。
 X線リソグラフィによって作製した100 nmスケールのトレンチ構造上に、紫膜をKCl緩衝溶液中で吸着させて、架橋構造を形成した。AFMを用いたイメージングでその場所を特定し、架橋部分において力-変位曲線を測定し、紫膜の弾性を評価した。図には、弾性測定を行う(a)前と(b)後の、架橋紫膜のAFM像を示す。また、この時得られた力-変位曲線を(c)に示す。測定前後において、紫膜がテラス上に吸着してナノトレンチを架橋した状態を維持し続けていることが分かる。一方、弾性測定においてAFM探針がつけた痕跡(図(b)中の矢印)が、明確に観察されている。AFM探針が表面に接触した後、力の増加とともに膜は伸張されてたわみ、最終的に2 nN付近の力で膜に損傷を与えている。損傷を与えるまでの、力-変位曲線は膜の弾性を直接反映している。テラス上で固定した膜を、AFM探針が押すことで膜が伸張するモデルでこの曲線を計算した。実験で得られた曲線とフィットさせることにより、紫膜のヤング率は8±1 MPaと見積もられた[1]。
 生体膜の力学特性を、AFMを用いて、より自然な状態で定量的に測定できることを示した。架橋した膜の中でタンパク質は、基板に固定されることなく、生体内と同じように機能することが期待される。今後、タンパク質の置かれた環境(溶液条件等)や、外的刺激に応じた特性の変化の解析が期待される。
 本研究の一部は、戦略的国際科学技術協力推進事業(JST)の援助を受けて行われた。

[1] Ari M. Siitonen, et al., Appl. Surf. Sci., in press.

図 トレンチを架橋した紫膜のAFM像:力学測定の前(a)と後(b) (c)その時得られた力-変位曲線

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