二次元空間に閉じ込められた色素分子間のFRET効率の定量解析

古川一暁
機能物質科学研究部

 細胞膜の基本構造である脂質二分子膜は、固液界面で自己組織化により自発的に形成される。我々はこれまでに、自発展開と呼ばれるこの特長を利用したマイクロ流路素子を提案し、蛍光共鳴エネルギー移動反応(FRET)を用いてその動作を確認してきた [1]。本研究では、この素子をFRET効率の定量的な決定に応用した[2]。
 実験には、色素としてNBD(ドナー)、Texas Red(アクセプタ)が結合した脂質分子を1モル%含む卵黄由来脂質分子L-α-PCを用い、幅10 mの直線パターンの両側から自発展開させた。2つの膜が衝突した直後(t = 0とした)から600秒後までの共焦点顕微鏡像を図1Aに示す。観察条件は、NBD:488 nm励起、505〜525 nm蛍光観察、Texas Red:543 nm励起、610 nm以上の蛍光観察、である。図1Bには、測定した蛍光強度の幅方向平均を、横軸xを実測の距離に対応させてプロットした。このとき、衝突地点をx = 0とおいた。
 自発展開膜の衝突後、2つの膜は融合され、NBD、Texas Redが側方拡散により二次元空間である膜内で混合される。さらに蛍光強度を幅平均することで、拡散挙動を一次元拡散方程式の解で表せる[2]。また、色素結合脂質の初期濃度はともに1モル%濃度で、側方拡散速度はほぼ等しいと考えると、衝突後の膜内では、2つの色素の濃度の和は各点xで1モル%となる。これらの合理的な仮定の下、図1Bのデータを解析した結果、ドナー-アクセプタ濃度比とFRET効率との相関の精度よい決定が可能になった(図2)。二次元空間に束縛された複数のドナー、アクセプタが関与するFRET効率を算出するモデルを適用し、本実験結果から求めたフェルスター半径は5.3 nmであり、既知の値とよく一致した[2]。

[1] K. Furukawa, et al., Lab Chip 6 (2006) 1001.
[2] K. Furukawa, et al., Langmuir 24 (2008) 921.

図1  (A) NBD、Texas Red (TR) 結合脂質を1モル%含む脂質二分子膜が自発展開し衝突した直後(t = 0)から600秒後までの共焦点顕微鏡像。
(B) 蛍光強度の幅方向平均値。衝突地点を x = 0 とおいた
図2  (上)図1の結果より求めたFRET効率のドナー-アクセプタ比依存性

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