InAs/AlGaSbヘテロ構造ナノビームのピエゾ抵抗への圧電効果の影響

山崎謙治1 Samir Etaki2 Herre S. J. van der Zant2 山口浩司1
1量子電子物性研究部 2デルフト工科大学

 ナノ電気機械システム(NEMS)は、超高感度センサ、新原理デバイス等が作製できる可能があることから、近年注目が集まっている。我々のグループでは、既にInAs/AlGaSbヘテロ構造を用いたメカニカルシステムについて、量子効果を利用することで大幅に感度を向上することに成功している。しかし、そのような系のピエゾ抵抗(メカニカルな歪みによる電気抵抗変化)の基本的なメカニズムについては、まだ良く分かっていないことが多い。そこで、我々はInAs/AlGaSbのNEMSを作製し、そのピエゾ抵抗を測定・解析した。その結果、NEMSのピエゾ抵抗は圧電効果によって大きく影響を受けることが強く示唆され、薄膜へテロ構造のメカニカル特性における圧電効果の重要性を初めて明らかにした。
 図1は、作製したInAs/AlGaSbナノ・ビーム(梁)の原子間力顕微鏡(AFM)像である。InAsとAlGaSbの膜厚は、各15 nmと35 nmだった。このように、犠牲層エッチングの量によって、ビームはアーチ型か平坦になる。つまり、エッチング量が多い場合、格子不整合に起因する応力によって、ビームの左右の取付け部が上方に巻き上げられ、これらの間のビームがアーチ型になる。AFMの探針でビームを押し下げることでピエゾ抵抗を測定したところ、ビーム形状(平坦かアーチ型か)に大きく依存した結果が得られた。抵抗変化と歪みから導出されるゲージ因子は、ふつう材料の特性を反映するが、この結果からはビーム形状に応じて正負の符号が反転し、かつバルクについて報告されている値よりもはるかに大きな値(絶対値)となった(表参照)[1]。この現象を理解する試みとして、ヘテロ構造薄膜のピエゾ抵抗を圧電効果を含め計算したところ、圧電効果を考慮するかしないかで結果が大きく異なることが分かった(図2)。つまり、このようなヘテロ構造薄膜を変形した場合、圧電効果によって、ビーム表面に電荷が誘起され抵抗が変化する。また、伝導層が薄くキャリアが少ない場合に、より大きな効果が得られることが示された。さらに、アーチ型と平坦なビームにおけるゲージ因子の正負の符号反転も、圧電効果を考慮した計算結果と符合し、よって大まかに実験結果を説明できた。
 このような結果はNEMSのメカニカルな理解を進め、より効果的なデバイスを設計・作製するために有用となる。
 本研究の一部は、科学研究費補助金基盤(A)(No.16206003)およびDutch NWO VICI-grantの援助を受けて行われた。

[1] K. Yamazaki, S. Etaki, H. S. J. van der Zant, and H. Yamaguchi, J. Cryst. Growth 301-302 (2007) 897.

表   ゲージ因子
(GF=(ΔR/R)/(ΔL/L))
の測定結果
 
図1  作製したアーチ型InAs/AlGaSbビーム(50 nm)厚のAFM像
図2  圧電効果(PE)ありとなしの場合の抵抗の計算結果

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