電子系が引き起こす機械的摩擦の検出

山口浩司1 岡本 創1 石原 直2 平山祥郎1,3
1量子電子物性研究部 2東京大学 3東北大学

 我々は、マイクロ・ナノ機械構造に低次元半導体構造を組み込むことにより、電子の振る舞いを調べる新しい物性研究の手法を提案している。この手法により、電子輸送特性に対する歪みの影響の解明[1]や、電子磁化の検出などに成功している。今回、高移動度変調ドープ構造をカンチレバーに組み込み (図1)、量子ホール系における磁気ピエゾ抵抗値を評価した。その結果、局在・非局在転位における著しい歪み効果や、カンチレバーの機械的運動に対して電子系が引き起こす摩擦の影響を調べることに成功した[2]。
 低温における移動度が約240万 cm2/Vsの二次元電子系からなるホール素子を、長さ200 µm、幅60 µm、厚さ1.3 µmのカンチレバーの根元に組み込んだ(図1)。この素子をピエゾ加振素子に取り付け、希釈冷凍機内でカンチレバーの共振周波数近傍で加振した際の抵抗値の変化、すなわちピエゾ抵抗の磁場依存性を測定した。電子が局在状態から非局在状態へ変る磁場領域で極めて大きなピエゾ抵抗が確認された。得られたピエゾ抵抗はゲージ率にして 25,000と極めて大きな値であり、通常の値より2桁以上高い。
 また、この磁場域付近でのカンチレバーの共振スペクトルを図2に示すが、共振幅(Q値)が磁場により大きく変化することが確認された。電子状態が非局在状態から局在状態に移るにつれ、Q値が著しく上昇している。これはカンチレバーの振動における機械的摩擦が電子系によって引き起こされており、量子ホール状態では電子の引き起こす摩擦が減少することを示している。
 本研究は科学研究費補助金基盤研究(A)(No.16206003)の援助を受けて行われた。

[1] H. Yamaguchi, et al., Appl. Phys. Lett. 86 (2005) 052106.
[2] H. Yamaguchi, et al., Jpn. J. Appl. Phys. 46 (2007) L658.

図1 作製したカンチレバー素子 図2 機械共振特性の磁場依存性

【前ページ】 【目次へもどる】 【次ページ】