半導体量子井戸における局在状態パーコレーションのイメージング

Simon Perraud 1,2 蟹澤 聖1 Zhao-Zhong Wang2 藤澤利正1
1量子電子物性研究部 2LPN-CNRS

 半導体ヘテロ構造中の二次元電子系(2DES)は、量子閉じ込め状態や電子密度などの重要なパラメータを制御できるという優れた特徴を持っている。最近我々は、n型の半導体In0.53Ga0.47Asの(111)A清浄表面では、フェルミ準位のピン留めが発生しないことを見いだした [1]。したがって、(111)A方位の基板表面に形成したIn0.53Ga0.47As薄膜による量子井戸(QW)を用いれば、電子密度が制御された2DESのQW中での振る舞いを超高真空(UHV)中において走査トンネル分光法(STS)で評価できることになる。この方法は、乱雑さを含む2DESの性質をナノメートルスケールの分解能で調べることを可能にする。乱雑さに起因する効果は、半導体構造中の多体現象などの電子物性を理解するうえで非常に重要である。
 複数のサブバンドを持つIn0.53Ga0.47As/In0.52Al0.48As表面QWを格子が整合するInP(111)A基板上に分子線エピタキシャル成長法で成長し、このQW中の電子の局所状態密度(LDOS)分布をUHV環境において5 Kの低温でSTS測定した。伝導帯において観測されたLDOSは、明瞭な階段関数型のエネルギー依存性を示し、設計どおりに2DESの複数のサブバンドが存在することが分かる(図)。観測するエネルギーによっては、LDOS分布は乱雑ポテンシャルが存在することによる強い空間揺らぎを示した。この乱雑ポテンシャルにより多重散乱した電子波動関数の量子力学的干渉効果によって、局在状態が形成される。エネルギー上昇に伴い、局在状態のパーコレーション現象が、各サブバンドの端部で観察された。我々はこのパーコレーション現象を、半古典的モデルにより説明した。観測された乱雑ポテンシャルの起源は、QWの最表面に乱雑に分布する自然形成された点欠陥であることが実験により明らかとなった[2]。
 本研究の一部は、科学研究費補助金基盤研究(A) (No.16206003)の援助を受けて行われた。

[1]S. Perraud, et al., Appl. Phys. Lett. 89 (2006) 192110.
[2]S. Perraud, et al., Phys. Rev. B 76 (2007) 195333.

図  InGaAsによる表面QWの214 nm × 214 nmの領域をUHV環境、5 Kの低温にてSTS測定し、平均して得られた微分伝導度(dI/dU)スペクトル。矢印は各サブバンドにおいて、半古典モデルで計算したパーコレーションの閾値を示す。図中のdI/dUの空間分布は、(a)禁止帯から第1サブバンドへ、(b)第1サブバンドから第2サブバンドへ、(c)第2サブバンドから第3サブバンドへの遷移が発生する領域のバイアス電圧依存性を示している

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