量子ドットを用いた非平衡キャリアのエネルギー分布測定

小林俊之1,4 鶴田尚英1,3,4 佐々木 智1 藤澤利正1 都倉康弘2 赤崎達志1,4
1量子電子物性研究部 2量子光物性研究部 3東京理科大学4JST-CREST

 半導体量子ドットは、電子をナノメートルサイズの極微な領域に閉じ込めることができるため、その内部で電子がとることができるエネルギーは原子のように量子化している。この量子化されたエネルギー準位はゲート電圧で容易に制御することができるため、量子ドットは電子のエネルギー分析器(スペクトロメータ)として用いることができる。
 今回我々は、量子ドットを用いて量子細線から出射したバリスティックかつ非平衡な電子・正孔のエネルギーを分析した(図1)。量子細線としてはゲート電極で形成された量子ポイントコンタクトを用い、電圧を印加することで熱い電子または正孔を出射させた。出射した電流は、垂直磁場によるフォーカシング法を用いて再度集束させ、そのエネルギーを分析した(図2)。ちょうど量子ドットのエネルギー準位に一致したエネルギーを持つ電子・正孔が入射すると、それらは量子ドットを透過することができるため、電流として検出される。そのためそのような条件では量子ドットの微分コンダクタンスがピークを示し、クーロンダイヤモンドのように観測される(図3)。
 出射されたキャリアのエネルギーが低い場合は分布がほとんど広がらないが、エネルギーを1 meV程度まで上げると電子・電子散乱によりエネルギーが緩和し、分布が広がる様子が確認された[1]。今回の結果は、量子ビット間の量子情報転送実験を行う際に重要になると考えられる。

[1] T. Kobayashi, et al., Phys. Stat. Sol. (c) 5 (2008) 162.

図1  デバイスの電子顕微鏡写真と測定セットアップ
図2  量子ドット付近における(a,b)電子(c,d)正孔の蓄積
図3  (a)非平衡キャリアが量子ドットの準位を透過することによる伝導度ピーク
(b)通常のソース・ドレイン電圧印加によるクーロンダイヤモンド

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