複数の磁束量子ビットの選択可能な長距離結合スキーム

中ノ勇人1 角柳孝輔1 仙場浩一1 上田正仁2
1量子電子物性研究部 2東京工業大学/NTTリサーチプロフェッサー

 量子計算機は、量子ビットと呼ばれる2状態素子を単位要素として、それを多数集めて構成される。量子計算機の実現にとって最も重要な要求、すなわち、コヒーレンス時間(量子状態の重ね合わせが維持される時間)内に計算を行うには、多数の量子ビットの中から任意の2つを随意に選択し、それらの間で2ビット量子演算を実行できると非常に有利である。特に、2つの量子ビットが空間的に隣り合っていなくても演算が可能であることが強く望まれる。しかし、通常、2量子ビット演算はビット間の物理的な相互作用を利用するため、他のビットに影響を与えないようにすることや、空間的に離れた2つの間で演算を行うのは多くの困難を伴う。
 我々は今回、超伝導量子ビット系に対して、そのような2ビット演算を可能とする構造と操作原理を考案し、その物理的特性を理論解析によって明らかにした(図1)[1]。全ての量子ビットは同一の超伝導共振回路(LC共振回路や伝送線路)と相互作用しているが、個々の量子ビットの共鳴振動数は直接の相互作用が無視できるよう十分に離れている。この共振回路を介した間接的な相互作用を利用して、上に述べた機能を実現する。
 ある特定の2つの量子ビット(共鳴振動数 ω1ω2)のみの間で2ビット演算を行わせるには次のようにする。共振回路にジョセフソン接合を使えば、接合に流す直流バイアス電流(Ib)によって共鳴振動数ωrが可変であることが重要である。ここで、共振回路の共鳴振動数をωr〜(ω1 + ω2)/2にチューニングし、外部から、ωex〜(ω2ω1)/2の振動数のマイクロ波を印加すると、2光子ラビ振動という過程によって、共振回路の状態は変化せずに2つの量子ビットの間の関係だけを変化させる、すなわち、2ビット演算を行うことができるようになる(図2)。ωrωexに関して、上の2つの条件を同時に満足する2つの量子ビットだけしか反応できないので、共振器とマイクロ波をうまくチューニングすることで多数の量子ビットの中から特定の2つだけを選択できる。また、共振回路の大きさはLC回路でも1 mm程度[2]、伝送線路ならさらに長距離離れた量子ビットを媒介することができるので、空間的に離れた量子ビットの2ビット演算が可能となる。
 本研究はJST-CREST、科研費補助金(No.18201018、18001002)の援助を受けて行われた。

[1]H. Nakano, K. Kakuyanagi, M. Ueda, and K. Semba, Appl. Phys. Lett. 91 (2007) 032501.
[2]J. Johansson, S. Saito, T. Meno, H. Nakano, M. Ueda, K. Semba, and H. Takayanagi, Phys. Rev. Lett. 96 (2006) 127006.

図1 量子ビット結合器の構造
図2  2量子ビット演算の例(量子もつれ形成)

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