人為構造における励起子のトポロジー

熊谷雅美
量子光物性研究部

 人為構造における一電子波動関数のトポロジーは散乱などの擾乱がなければ構造だけによって決定される[1]。これに対し、励起子波動関数のトポロジーは構造に加え、励起子の相対運動の拡がり方にも強く依存する。我々はこのことに着目し、人為構造における励起子波動関数のトポロジー転移について薄いナノチューブ構造を用いて調べてきた[2]。
 理論計算によりナノチューブ中の励起子波動関数がチューブの構造に対応して多彩な分布を見せる(口絵参照)ことを示すとともに、そこでの円周長の制御による波動関数変化の起源がトポロジー転移であることを明らかにした。通常の量子井戸構造では、量子閉じ込めエネルギーは閉じ込め領域が小さいほど増大する。これに対し、円周方向につながったトポロジーを持つナノチューブ構造では、図1のようにチューブの円周長を小さくすると量子閉じ込めエネルギーが減少することが示された。これは、円周長が小さくなることによって励起子が円周方向につながり、励起子の基底状態波動関数のトポロジーが線分と同じものから円周と同じものへ転移して、量子閉じ込めの効果が消失したことによるものである。
 また、人為構造自体を変化させるのではなくチューブ内・外にある障壁領域の誘電率を外部制御することで励起子のサイズを変化させることにより、励起子波動関数のトポロジー転移を起こすことが可能であることを示した。図2は、チューブ内・外にある障壁領域の実効的誘電率を12から3まで減少させたときの励起子の基底状態波動関数の変化を示したものである。実効的誘電率の低下に伴い、円周方向に広がっていた波動関数が円周の一部に局在していくことが見て取れる。このことは、励起子の性質を決定するパラメータ(材料の物性定数など)を利用して構造自体の変化なしに励起子のトポロジー制御が可能となることを意味しており、トポロジーという新しい概念を利用した新機能デバイスの動作原理の創生が期待できる。

[1] M. Kumagai and T. Ohno, Solid State Commun. 83 (1992) 837.
[2] M. Kumagai, et al., Solid State Commun. 145 (2008) 154.



図1  閉じ込めエネルギーの円周長依存性
 
図2  励起子波動関数の誘電率依存性

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