通信波長帯単一光子のLiNbO3導波路による周波数上方変換と高効率・低暗計検出

鎌田英彦
量子光物性研究部

 近年、盗聴や漏洩に対して安全な電気通信への需要の拡大によって量子力学に基づく新しい世代の情報通信技術の開発速度が加速している。量子鍵配送(QKD)は無条件に安全な通信ネットワークの実現における重要な技術になりえると予想されている。これらを背景に、単一光子やエンタングル光子対の生成技術が重要視されるようになった。最近、周期的分極反転構造を有するLiNbO3(LN)非線形導波路での高効率周波数変換を利用し、光子波長を可視域に変換し、可視域で動作する高効率光子検出器で検出する方法が試されている。周期的分極反転構造は、和周波発生に関わる3つの光波の波数のミスマッチをその周期で補償するため、位相整合条件を大幅に緩和する。我々は、1550 nmより長い波長のポンプ光を用いて、1550 nm帯の光子を変換し検出するデバイスを検討し、高効率での周波数と低雑音検出を実証した[1]。
 我々のデバイスは1810 nmのポンプ光のもとで1550 nm帯の光を910 nmに変換する。導波路の作製は、周期的分極反転を施したLN(PPLN)ウェハとLiTaO3クラッドウェハとを直接接合し、7 µm 厚、 6〜8 µm幅の導波路をdicing sawで加工することでなされた。
 1550 nm帯の光子の変換効率として、26 mWポンプにおいて約40%を得た(図1、2)。ポンプ光の波長を1550 nm帯より長い側に設定したことで、ポンプ光による導波路内でパラメトリック自然放出による1500 nm帯の光子発生は抑圧されるため、ポンプレーザに付随する1500 nm帯の光子を注意深く抑圧することにより、寄生的な変換光子の発生を大幅に低減することが可能になった。これにより、暗計数率として102 sec-1以下が得られた(図2)。ファイバ・導波路の結合65〜70%、Si-APDの量子効率〜57%を考慮すると、全体での光子検出効率34〜40%を102 sec-1以下が期待できる。
 この研究の一部は情報通信研究機構(NICT)の援助を受けて行われた.

[1] H. Kamada, M. Asobe, T. Honjo, H. Takesue, Y. Tokura, Y. Nishida, O. Tadanaga, and H. Miyazawa, Opt. Lett. 33 (2008) 639.

図1  SFG出力パワー(左)、導波路端でのシグナル光(中)、ポンプ光(右)の透過パワー。測定温度は24 ℃
 
図2  光子検出効率・暗計数率と1810 nmポンプ光のパワーの関係:スループットは約20%(Si-APD効率57%を含む)。暗計数は、ポンプ光から付帯的な雑音光子を除いて102 sec-1以下

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