通信波長帯絶対位相制御光周波数コムの低パルスエネルギー閾値化

石澤 淳 西川 正 中野秀俊
量子光物性研究部

 モード同期レーザの隣り合うパルス間の絶対位相(もしくはキャリアエンベロープ位相)のスリップ量はキャリアエンベロープオフセット(CEO)と呼ばれる。近年、モード同期レーザ技術の著しい進展により、CEOロックした光周波数コムが実現され、セシウム原子時計等のマイクロ波基準信号を元に正確に固定された周波数間隔と位置を持つ光周波数基準光源が得られるようになり、周波数軸上の“光のものさし”として光周波数計量の分野に飛躍的な進歩をもたらした。この超高確度な波長を持つ光周波数コムを小型化し、さらに各モード1本1本の光コムを分離して自在に制御することが実現できれば、超精密分光や次世代コヒーレント通信等の新たな応用分野が飛躍的に広がる。
 現在、CEO検出に必要なオクターブ帯域光発生の為に、ファイバレーザベースのものでは増幅段を要し、小型化を難しくしている。また、高繰り返し周波数レーザは1パルス当りのパルスエネルギーが低くなるために高繰り返し化を難しくしている。したがって、小型化や高繰り返し化のために低パルスエネルギーでCEOロックすることが極めて重要である。
 今回我々は、帯域1オクターブ以上のスーパーコンティニューム(SC)光発生の低エネルギー閾値化とCEO検出用マッハツェンダ(MZ)型干渉計における第二高調波発生の高効率化に着目し、高非線形分散シフトテルライトフォトニック結晶ファイバ(PCF)とPPLNリッジ導波路を使用した。レーザの偏光方向、テルライトPCFの長さおよびコア径を変化させて低パルスエネルギーでSC光発生の最適条件を見出し、従来記録200 pJを上回る、80 pJの低い入力パルスエネルギーで帯域1オクターブのSC光発生に成功した(図1)。この結果は、ファイバレーザ発振器だけで帯域1オクターブのSC光発生が可能であることを示している。一方、CEO信号はテルライトPCFから出力するSC光長波長成分の第二高調波とSC光短波長成分の干渉信号から検出する。テルライトPCFから出力するSC光スペクトルからCEO検出に最適な波長は965 nmであると判断し、MZ干渉計にPPLNリッジ導波路を設置して第二高調波発生の高効率化を行った結果、従来記録600 pJ[1]を上回る、230 pJの低い入力パルスエネルギーでCEOロックすることに成功した(図2)[2]。今後はPCFへの結合効率の改善等を行い、ファイバレーザ発振器のみで通信波長帯絶対位相制御光周波数コムの実現を目指す。

[1] I. Hartl, et al., Opt. Express 13 (2005) 6490.
[2] A. Ishizawa, et al., Opt. Express. 16 (2008) 4706.

図1  帯域1オクターブのSC光スペクトル(黒色)と入射光スペクトル(灰色)
図2  CEOビート信号(黒色)とエラー信号(灰色)

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