非極性面Al1-xGaxN (1120) 薄膜 (x<0.2) の面内歪の異方性

赤坂哲也 小林康之 嘉数 誠
機能物質科学研究部

 窒化物半導体薄膜では、従来の(0001) 極性面に加えて、 (1120) や (1100) といった非極性面が最近注目されている。極性面で問題となっていたピエゾ分極による量子井戸の発光効率の低下が、非極性面を用いることによって克服されるからである[1]。一方、SiC基板は窒化物半導体と格子不整が小さく、電気や熱の伝導度が高い特徴があり、ヘテロエピタキシの基板として広く用いられている。ところが、SiC基板と非極性面窒化物半導体では格子定数差に異方性があり、格子整合条件が複雑となる。例えば、AlNはSiCに対してa軸は1%大きく、c軸は逆に1%小さい。本研究では、Al1-xGaxN (1120) 薄膜 (x<0.2) をSiC (1120) 基板上に作製し、格子定数、面内歪および結晶性の検討を行った。
 ヘテロエピタキシでは、転位や積層欠陥の発生を抑えるために格子整合 (Pseudomorphic) 成長が重要となる。Al1-xGaxN (1120) 薄膜の面内歪のGa組成依存性を図1に示す。Ga組成が0.06より小さい場合、[1100]方向の面内歪εxx、および、[0001]方向の面内歪εzzともに、Pseudomorphicを示すそれぞれの実線に近く、Pseudomorphic成長をしている。これは、[1100]方向の圧縮応力と[0001]方向の引張応力がバランスするために実現された[2]。(1120) 面のX線ロッキングカーブ (XRC) 測定で得られた半値半幅 (FWHM) のGa組成依存性を図2に示した。[0001]方向のチルト角の値は、 (0001) 面に平行な積層欠陥等の欠陥密度に対応しているが、Ga組成の増加とともに減少することが分かった。図1からも分かるとおり、Ga組成の増加とともに[0001]方向の面内歪εzzが段々と小さくなるためである。
 本研究では、Al1-xGaxN (1120) 薄膜のPseudomorphic成長を実現した。さらに、非極性面窒化物半導体の面内歪はバンド構造や発光の偏光特性に影響を及ぼすため、本研究で得られた知見は非極性面を用いる発光素子の設計指針として用いることもできる。

[1] P. Waltereit et al., Nature 406 (2000) 865.
[2] T. Akasaka, Y. Kobayashi, and M. Kasu, Appl. Phys. Lett. 93 (2008) 161908.
 

 
図1  [1100]方向の面内歪、εxx(●)と、[0001]方向の面内歪、εzz(▲)のGa組成依存性。
図2  [1100]方向のチルト角のGa組成依存性。

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