GaN基板上に作製した高性能窒化物ヘテロ接合バイポーラトランジスタ

熊倉一英 牧本俊樹
機能物質科学研究部

 窒化物半導体とサファイア基板には、大きな格子不整合や熱膨張係数の差が存在する。GaNを成長するための最適な基板は、ホモ成長となるGaN基板であることは間違いない。デバイス応用の観点からも、GaN基板を使用する利点は、基板自体の転位密度が低いことや、基板の熱伝導が良いためハイパワー動作時に効率よく熱が放出されることが挙げられる。原理的にヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT) は、均一な閾値を有し、高い電流密度で動作が可能である。また、ノーマリーオフ特性は、フェイルセーフシステムとして有利である。したがって、窒化物HBTはハイパワーデバイスとして有望である。本研究では、GaN基板上に作製したpnp AlGaN/GaN HBTの、室温でのハイパワー動作について報告する。
 図1に、サファイアとGaN基板上に作製したpnp AlGaN/GaN HBTの室温での電流利得のコレクタ電流依存性を示す。GaN基板上のHBTは、コレクタ電流が30 mA時に最大電流利得が85であった。コレクタ−エミッタ電圧が30 V時の最大コレクタ電流密度は7.3 kA/cm2であり、最大許容損失は219 kW/cm2となる。電流利得とコレクタ電流密度はサファイア基板上のHBTと比べ増大している。計算した少数キャリアの拡散長は、電子線誘起電流測定から求めた結果とよく一致していることが明らかとなった[1]。これらの結果は、GaN基板上のHBTの輸送特性が、ベース層中の少数キャリアである正孔の拡散で律速されており、HBT中の転位密度が低いことで、電流利得が増大していることを示している。大きなエミッタ面積のHBTにおいても電流利得は47と高く、このHBTでは、図2に示すように、最大コレクタ電流は1 Aにまで達している。さらに、最大許容損失は30 Wに達し、単一のHBTでも優れた特性が得られた。このようにGaN基板上に作製したHBTが優れた特性を示すのは、転位密度が低く、高い熱伝導率を有するGaN基板の特性を効果的に活用したためである。

[1] K. Kumakura et al., Appl. Phys. Lett. 86 (2005) 052105.
 

  
図1  GaNおよびサファイア基板上に作製したHBTの室温における電流利得のコレクタ電流依存性。
図2  GaN基板上に作製したHBTの最大コレクタ電流と最大許容損失のエミッタサイズ依存性。

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