走査プローブ顕微鏡によるナノ構造の光励起・電子励起発光の同時測定の実現

尾身博雄 Ilya Sychugov 小林慶裕
機能物質科学研究部

 ナノ構造の光学的・電気的な特性はナノスケールで光や電流をプローブすることにより評価 することができる。特に、光の回折限界を超えた分解能(約1µm)でナノスケールの領域をプ ローブするためには、電子励起あるいは光励起により生じた近接場光を検出する必要がある。光励起の場合、通常、ナノ領域の近接場光は走査型近接場光学顕微鏡 (SNOM) により検出することができ、SNOMには開口型と非開口型の2つのタイプがある。開口型では、近接場光が検出できるものの、探針として誘電体を用いるため電気的な測定には不向きである。逆に、非開口型のSNOMでは、探針として金属などを用いた場合には光照射によるプラズモン効果で探針先端に局所電場を増強させることができる。しかし、開口型SNOMとは異なり、発光測定において遠視野域での光学的な調整が必要となる。
 一方、原子分解能を持つ走査トンネル顕微鏡 (STM) は半導体材料の場合にはトンネル電子が発光現象を引き起こすため電子励起の発光を測定することができる。
 また、STMでは探針を試料へのトンネル電子を使ってスキャンするため通常のSNOMよりも探針を試料に近づけることができるという利点がある。また、トンネル電子による発光励起領域のサイズは約10 nm程度なので高い空間分解能の測定が期待できる。さらに、STMでは電子励起だけでなくホール励起もできるという利点がある。しかし、通常のSTM発光測定では探針として金属が使われるため、光の検出は遠視野域で行われることになり、近接場光の検出ができないという欠点がある。
 今回、我々は光励起および電子励起により個々のナノ構造からの発光を近接場領域で高効率かつ高空間分解能で測定することを目的として、SNOM-STM発光装置を開発した。本装置では、金属を蒸着した透明ファイバープローブの先端に収束イオンビームによりナノスケールの開口を加工した探針(図1)をSTM動作させる。これにより通常のSNOMではできない光励起による高い集光効率の近接場発光測定と通常のSTMだけではできない電子励起による近接場発光の測定をナノスケールで同一領域に対して同時に測定することを実現した(図2)[1]。

[1] I. Sychugov, H. Omi, T. Murashita, and Y. Kobayashi, Nanotechnology 20 (2009) 145706.
 

 
図1  開口型金属チップ。
図2  ナノスケールで同一領域からのエレクトロミネッセンス (EL) とフォトルミネッセンス (PL)。

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