単層カーボンナノチューブにおける直径依存性を示す水素吸着

登倉明雄1 前田文彦1 寺岡有殿2 吉越章隆2 高木大輔3 本間芳和3
渡辺義夫4 小林慶裕1
1機能物質科学研究部 2日本原子力研究開発機構
3東京理科大学/CREST 4高輝度光科学研究センター

 単層カーボンナノチューブ (SWNT) は、次世代エレクトロニクスの材料として非常に注目を集めているが、電子構造が構造に大きく依存するため特性がばらつく問題があり、SWNT電子物性の制御は重要な課題の一つとなっている。我々は表面修飾によりSWNT構造を変調することが効果的な特性制御に結びつくと考えて研究を進めており、その材料として水素に着目した。細いSWNTにおいてC-H結合がより安定であること[1]や、水素の吸着量に依存してバンドギャップが変調されること[2]が理論的に予測されており、水素は特性変調の有力な候補である。さらに、結合の安定性の違いは、選択的な反応を意味し、直径に依存した特性制御につながる可能性がある。今回、表面修飾による特性制御の可能性を探るため、よく定義された条件下で原子状水素のSWNTへの吸着に関する研究を行った。
 原子状水素照射後にその場で測定したC1s の内殻準位スペクトルの解析により、図1に示すように吸着によるC-H結合が存在することが分かった。また、図2に示す原子状水素の照射前後に大気中で測定したラマン散乱スペクトルでは、SWNT の直径とラマンシフトの量が反比例する関係を持つradial-breathing-mode (RBM) において、直径1.2 nm以下の細いSWNTからのピークが照射後に激しく減少している。すなわち、吸着によって引き起こされる構造変形が細いSWNTにおいてより起こりやすいことを示している。以上の結果は、水素原子は細いSWNTに選択的に吸着することを示しており[3]、水素吸着を利用することによって、ある径以下など特定の条件にあるSWNTをターゲットとした特性制御の可能性を示唆するものである。

[1] T. Yildirim et al., Phys. Rev. B 64 (2001) 075404.
[2] K. A. Park et al., J. Phys. Chem. B 109 (2005) 8967.
[3] A. Tokura et al., Carbon 46 (2008) 1903.
 

 
図1  水素照射後に測定したC1s スペクトルのピークフィッティング結果。
図2  水素照射前後におけるラマン散乱スペクトル(RBM領域)。

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